最新記事

考古学

ローマや北京はなぜ「崩壊」しなかった? 古代都市から「持続可能性」を学ぶ

Learning from Ancient Cities

2021年12月23日(木)17時01分
マイケル・E・スミス(アリゾナ州立大学教授、考古学者)
都市国家テオティワカン

メキシコの都市国家テオティワカンの滅亡とともに各集落は廃墟と化した MICHAEL E. SMITHーSLATE

<何世紀も存続している古い都市の特性は、現在の世界の各都市が「気候変動」という難題を乗り越える重大なヒントになる>

ご記憶だろうか。古代アステカ帝国の都テノチティトランも、最初は湿地帯に囲まれた小さな町だった。しかし度重なる征服や疫病、日照りや洪水をどうにか生き延びて、今や世界有数の大都市(現在のメキシコシティ)になっている。実に感慨深い。

学生を連れて近くの有名な遺跡を訪ねるたびに、私は思う。あっさり滅んでしまう都市が多々あるなかで、テノチティトランや北京、あるいはローマのような都市が何世紀にもわたって繁栄を持続できた秘訣は何なのかと。

長年にわたる遺跡調査で気付いたのは、短命に終わった都市のほうが長命の都市よりもはるかに多いという事実だ。なぜなのか。一部の都市がさまざまなストレスや災害に耐え、うまく適応できた理由は何なのか。その検証が今こそ求められている。

そこで得られる知見は、気候変動に適応できる都市づくりを考える上で役立つかもしれない。未来に向けた都市計画に必要な情報と、私たちが現に持っている情報の間には「知識ギャップ」がある。そのギャップを、都市の遺跡が埋められるかもしれない。

今は多くの政策論議や行政の施策が「持続可能性」の旗印を掲げているが、その持続可能性なるものはたいてい希望的観測にすぎない。長い時間軸で見た場合に物事がどうなるかを、私たちはほとんど知らない。5年先を見るだけではダメだ。都市や社会、その諸制度が遠い未来まで生き延びること。それこそが真の持続可能性だ。長期にわたる都市の変化を理解しない限り、変化に適応する政策設計も戦略もできない。

ローマとアンコールの違いとは

長い時間軸で考えるのは考古学や歴史学の得意とするところ。そしてそこには、まだ手付かずの資料や情報が山ほどある。私たち考古学者は、幾世紀も続いた古代都市の遺跡を何千も見つけてきた。短命に終わった都市の遺跡も数え切れないほどある。

今も繁栄を続けている都市(ローマなど)もあれば、何百年も前に滅んだ都市もある(カンボジアのアンコールなど)が、長命の都市は例外なく資源の問題を克服し、さまざまなストレスに耐え、そこに住む人々の集合的な問題をうまく解決していた。

言い換えれば、存続できた都市は社会や自然の変化にうまく適応していた。そういう都市に学べば、古代社会の都市にとって何が長命の要因だったか、あるいは短命に終わった原因が何だったかを解明できるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ戦争後の平和確保に協力とトランプ氏、プー

ビジネス

中国、TikTok巡る合意承認したもよう=トランプ

ワールド

米政権がクックFRB理事解任巡り最高裁へ上告、下級

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRBの慎重姿勢で広範に買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中