最新記事

女子テニス彭帥選手の告発に沈黙守る元副首相 中国共産党、口を閉ざしてきた歴史

2021年11月27日(土)10時55分
中国女子プロテニス選手の彭帥

女子プロテニス選手の彭帥さん(写真)が糾弾した当人である張高麗元副首相(写真)は沈黙を守り、中国指導部を覆う謎のベールの奥にとどまったままだ。2019年1月の全豪オープンで撮影(2021年 ロイター/Edgar Su)

元中国副首相による性的暴行をソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のウェイボ(微博)で暴露した後に行方が分からなくなっていた女子プロテニス選手の彭帥さんが、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長との電話会談という形で姿を現した。しかし、その彭帥さんが糾弾した当人である張高麗元副首相は沈黙を守り、中国指導部を覆う謎のベールの奥にとどまったままだ。

彭帥さんは今月2日、今月で75歳となる張高麗氏から3年前に性的関係を強要されたと告白。彼女は張高麗氏側から関係を解消されるまで、断続的に不倫をしていたことも明かした。

投稿は公表後、間もなく削除され、中国国内でこのトピックに関する情報は完全に遮断されている。ただ、彭帥さんが3週間近く消息不明になると、国際社会から彼女の安全を懸念する声が上がり、SNS上には「彭帥さんはどこに」というハッシュタグがつけられた。

最近になってバッハ氏とのテレビ電話を含め、彭帥さんの幾つかの映像は伝えられているものの、テニス界や国際機関の間では、本当に彼女の身の上が大丈夫なのかという疑念が消えていない。

人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、IOCとバッハ会長が来年2月に北京冬季五輪を控えている中国による「人権侵害の可能性をなかったことにする試み」に関して、その片棒を担いでいると非難した。

一方、これまで彭帥さんに比べると、張高麗氏の注目度は低かった。2018年に引退した張高麗氏は、ほぼ全ての共産党指導者と同じように公的な場に登場することはほとんどない。

張高麗氏と中国政府は、彭帥さんの告発に直接のコメントしなかった。中国国務院新聞弁公室はコメント要請に回答がなく、彭帥さんの投稿にも言及せず、張高麗氏への取材窓口にもなっていない。

シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院のアルフレッド・ウー准教授は「張高麗氏に発言を許せば、冬季五輪直前に望ましくない形で中国指導部の評判に傷をつけることになる。たとえ共産党が張高麗氏に対して内部規律違反に関する処分を下すとしても、すぐに公表せず、まずは批判の嵐が収まるのを待ち、党の強さを証明する意味合いを持たせようとするだろう」と述べた。

天津から中央へ

張高麗氏が最後に公の場に姿を見せたのは今年7月1日で、共産党創建100周年の祝賀行事に列席していた。その場所は、6年前に同氏が冬季五輪の成功を厳かに誓った人民大会堂からほど近い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中