最新記事

世界に貢献する日本人

杉良太郎はなぜ152人を里子にしたのか? 生涯をかけた信念を語る

2021年11月19日(金)20時16分
藤田岳人(本誌記者)
杉良太郎(ベトナム孤児院)

ベトナムのバックラー孤児院では現在でも入所する全員を里子にしている(写真は1989年の初訪問時) ©︎杉友

<長年にわたって世界各国で数十億円の私費を投じてきた慈善活動。そこには生涯をかけた強い信念と、困窮する人たちへの愛があった>

里子の数152人、投じた私財は数十億円以上──。歌手・俳優として活躍する杉良太郎は、個人として「桁違い」の規模で慈善活動に打ち込んできたことでも知られる。

国内ではデビュー前だった15歳の頃から刑務所や老人ホームへの慰問を始め、法務省特別矯正監や麻薬追放協会会長を務めるなど幅広く活動。その功績から、紫綬褒章や緑綬褒章を受章し、文化功労者にも選ばれた。

一方、国外で活動を始めたのは27歳のとき。アジア諸国やアメリカ、ブラジルなど世界中でチャリティー公演や孤児院・障害者施設への援助を行い、文化交流もしてきた。バングラデシュでは約50の学校の建設、ミャンマーでは孤児数百人の食事の世話や救急車の寄付と、億単位の資金を多くの国で費やしてきた。

なかでもベトナムとは、現在まで深い縁でつながっている。1989年の初訪問時、チャリティー公演で杉はベトナムの平和と繁栄を訴えた。同国が西側の文化交流団を受け入れるのは初めてだったが、要人たちはベトナムのことを思う杉の姿に感銘を受け、当時のド・ムオイ首相は「日本のような国になりたい」「世界で一番、日本語が話せる国になりたい」と、杉に語った。

そうしてベトナムに引き込まれていった杉だが、当時の同国は度重なる戦禍で荒廃し、貧困問題も深刻だった。首都ハノイにあるバックラー孤児院で、杉は衝撃を受けたという。子供たちが「食べていたのは1食1円のもの。カビが生えた米に、その辺の草と塩だけが入ったお吸い物、1センチ四方の魚のかけらが2枚だけ」だったと回想する。

「お父さん、お母さんが欲しい」

そこで杉は自ら市場でニワトリやブタを買い、小屋を建てた。それを育てて食べるだけでなく、売った金でミシンを買って服を作り、着たり売ったりするサイクルを教えた。「お金を寄付してもそれだけで終わる。だから自活できる道をつくっていった」。ただ、そうした取り組みだけで、子供が本当に満たされるわけではないことを知る出来事があった。

「お菓子やおもちゃを持って行っても、見ているだけの子供たちがいた。なぜ食べないのか聞いてみると『お父さん、お母さんが欲しい』と言った。何かあげれば喜ぶと思っていたが、人間はやはり愛情に触れたいのだ」と気付いた。そこで杉は、子供たちを里子にすることに決めた。バックラー孤児院の子供全員を里子にし、その数が現在は冒頭の152人となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:高級品業界が頼る中東富裕層、地政学リスク

ワールド

トランプ氏、イラン制裁解除計画を撤回 必要なら再爆

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中