最新記事

世界に貢献する日本人

杉良太郎はなぜ152人を里子にしたのか? 生涯をかけた信念を語る

2021年11月19日(金)20時16分
藤田岳人(本誌記者)

その活動資金のほぼ全額を、杉は自腹で賄ってきた。「海外で多くの公演をやってきたが、1回も利益を目的とする興行をしたことはない。全部チャリティーだった」と言う。そんな杉をアメリカの「チャリティー王」ボブ・ホープは「あなたは日本のチャリティー王だ」と称賛した。

数十億円という金額は、決して道楽で出せる金額ではない。「芸能人は金持ちなんだと思われることもあった」が、実際には資金を捻出するために多くの資産を抵当に入れて銀行から融資を受け、「自分の体を担保にして1億円貸してほしい」と直談判しに行ったこともある。

それでも「自分に力があれば、もっと助けられたと感じる」と言う。映画『シンドラーのリスト』で、多くの人命を救ったシンドラーは最後に「もっと救えた」「もっと金があれば」と語る。「その気持ちは本当によく分かる」

思いと心を乗せた援助を

どうして、そこまで慈善活動を続けるのか。「みんなに言われる。裏があるんだろうと思われる」と話す杉だが、自分でも理由は分からないという。「まあ、そういう人間もいるんですよ」

そもそも、相手国から来てほしいと言われたこともない。「全部押し掛け。自分で『これはやらなきゃいけない』と考え、相手の国に問い合わせて費用は自分で出すと言うと『それなら来てください』と言われて行っている」

ただ、「自分の目で孤児院や盲学校の状況を見ると『俺が援助する』となる」という彼の言葉からは、目の前で困っている人や苦しんでいる人を放っておけないという愛情が感じられる。

杉自身、「愛で、全ての問題は解決できると思う」と語る。だから支援にも、愛情や優しさが必要だとする。「ぽんとお金を寄付するのもありがたいことだが、私は後々まで見届け、人の思いと心を乗せた援助をすることを心掛けている」

また何十年も芸能界のトップに居続けたからこその思いもあるようだ。「神様がひとつだけ願いをかなえてくれるなら、『人の心の真実を教えてください』と願う。(彼らの)本当の気持ちが知りたい」と、杉は言う。「施設の人たちには虚栄心も忖度もない。ストレートに反応してくれる。そこに真実の涙や笑顔がある。それはお金を出して買えるものではない」

ベトナムにいる152人の里子とは頻繁に会えるわけではない。それでも、「いつも思いを寄せているし、心配している。それが愛情だ」。

Ryotaro Sugi
杉 良太郎
●歌手・俳優

(本誌11月23日号「世界に貢献する日本人30」特集では、本田圭佑、白川優子、國井修、富永愛ら、よりよい世界の力になる30人の功績を取り上げる)

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 

ワールド

ウクライナ、米国の和平案を受領 トランプ氏と近く協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中