最新記事

環境

韓国、尿素水不足で物流や工業セクター混乱 中国が輸出制限

2021年11月10日(水)11時15分
韓国・益山で尿素水を求めて並ぶ人々

韓国でディーゼル車の運行や工場の操業に必要な尿素水が不足している。尿素水を求めて並ぶ人々、益山で9日撮影。聯合ニュース提供(2021年 ロイター)

韓国でディーゼル車の運行や工場の操業に必要な尿素水が不足している。尿素水は排気ガスの浄化に使われており、不足が続けば、物流や工場の操業がストップする恐れがある。

業界の専門家によると、韓国では貨物トラックを中心に約200万台のディーゼル車が尿素水の利用を政府から義務付けられている。

尿素の主要供給国である中国は先月、国内市場を優先するため、輸出を制限。産業通商資源省によると、1─9月に輸入した尿素の97%近くは中国産だった。

あるトラック運転手はロイターに、尿素水を確保するため、ガソリンスタンドに慌ててトラックを飛ばしたが、行列ができており、自分の番は回ってこなかったとし、このまま尿素水が手に入らなければ、明日から仕事が続けられなくなると語った。

大手製油所の幹部によると、トラックの運行が止まれば、ガソリンスタンドにガソリンを供給できなくなる事態も想定される。同幹部は「ガソリンスタンドが十分な供給を受けられなければ、ほぼすべての産業で物流コストが上がり、最終的には消費者も負担を迫られる恐れがある。日用品の値上げにつながりかねない」と述べた。

さらに大きな影響を受ける恐れがあるのが工業部門だ。同部門も環境汚染対策の一環で尿素の利用を義務付けられており、尿素が不足すれば、生産が止まる恐れがある。

環境省によると、2020年に輸入された尿素83万5000トンのうち、工業用は34.7%、車両用は9.8%、残りは肥料用だった。

メーカーのある関係者は、工業部門の尿素在庫がすでに低水準となっていると指摘。「われわれにできるのは、政府に環境規制の緩和を求めることだ」と述べた。

自動車産業にも懸念が広がる

韓国の自動車技術研究所の幹部は、尿素不足が続けば、自動車メーカーの部品調達が難しくなると予想。部品メーカーが輸出用部品を港湾に輸送できなくなれば、自動車メーカーの海外工場の生産に悪影響が出かねないとの見方を示した。

文在寅大統領は9日の閣議で「過度な懸念」は不要だと発言。政府は公的部門の尿素備蓄を放出しているほか、軍の備蓄も放出する計画だ。

今週は、ベトナムから200トンの尿素を確保。最大1万トンの確保に向けて他の諸国とも交渉を進めている。

韓国では、2015年以降に製造されたディーゼル車は、ディーゼルエンジンの排気中の窒素酸化物(NOx)を尿素水で浄化する「選択触媒還元」システムを搭載する必要がある。

尿素水がないと、乗用車は発進できず、トラックも最大時速20キロでしか走行できない。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・『イカゲーム』の悪夢が世界をここまで虜にする理由
・地面に信号! 斜め上を行く韓国の「スマホゾンビ」対策が話題に
・韓国、保守に政権交代なら核兵器を配備する方針...米国は「関心なし」と専門家


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国大統領が戒厳令、国会は拒否 軍介入やデモなどで

ワールド

イスラエル高官、トランプ氏の人質解放要求を歓迎 ガ

ワールド

ブラジル第3四半期GDP、前期比0.9%増 金融引

ビジネス

米求人件数、10月は予想上回る増加 解雇は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 6
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 7
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 8
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 9
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 10
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 9
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 10
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中