最新記事

朝鮮半島

特殊部隊にいた文在寅、韓国の軍事的自立を追求 後継にも影響か

2021年11月1日(月)10時38分

文大統領による軍事力強化の裏には別の要因もあり、特に顕著なのは、北朝鮮による脅威の増大に対する純粋な懸念だ、と当局者らは指摘する。

さらに、軍事力強化は国内の防衛関連企業にとっては新たなビジネス機会になり、国家としての威信を高め、文大統領としては「北朝鮮への歩み寄りによって韓米同盟が揺らいでいる」とする保守派からの批判をかわすことにもつながっている。

「力による平和」

韓国の軍事関係者は、文大統領にとって軍事力の強化は、米国への依存を弱めつつ、優位な立場で北朝鮮との和平を構築するための当然の一策であるとの考えを示した。

「文大統領の動きは重要な示唆を与えている。つまり韓国は、同盟各国の一部としてではなく、自ら率先して朝鮮半島和平の先頭に立つ用意がある、という意味だ」とこの関係者は述べた。やはりセンシティブな問題であることを理由に匿名を希望している。

「力に裏付けられた平和を推進する一方で、現政権は北との結びつきも諦めていない」と同関係者は言葉を重ねる。「北朝鮮が交渉のテーブルに戻ってくるよう最後まで努力するだろうし、その努力に沿って、戦争の終結という主題を提起してきた」

文大統領は9月の国連総会での演説で、朝鮮戦争の正式な終結を宣言することを呼び掛け、それによって、米国による制裁解除と引き替えに北朝鮮の非核化を目指す交渉においても停滞を打開しやすくなるだろうと述べた。

近年、北朝鮮は短距離ミサイルの試射を何度か実施しており、アナリストらによれば、韓国の防衛網を回避することを意図したものだという。また北朝鮮は韓国の動きに呼応する動きをいくつか見せており、韓国側に対抗する兵器展示会を開催したほか、韓国が独自の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験を行った数週間後には、やはりSLBMの試射を行っている。

北朝鮮は、韓国による兵器の調達や米軍との合同訓練について繰り返し抗議しており、韓国が軍備開発に対して二重基準を適用しつつ、自国の軍事力強化によって朝鮮半島の不安定化させていると批判している。

一方で、韓国当局者によれば、北朝鮮は都合に応じて、韓国の軍事的な動きを無視する、あるいは軽視しようという態度も見せているという。

「韓国の兵器が北朝鮮にとって歓迎すべきものでないことが明らかであるにもかかわらず、強い反発は見られない。それが通常の状態であることを装い、自国の兵器開発を正当化するという戦略ではないかと考えている」と最初に紹介した関係者は述べた。「だが、南北間に何ら軍縮のメカニズムや信頼構築のための手段が存在しない状況で、軍拡競争は非常に危険な方向に向かいつつある」

(Hyonhee Shin記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ウォン安と不動産価格上昇、過剰流動性だけが背景では

ビジネス

12月の豪消費者信頼感指数、悲観論が再び優勢 物価

ビジネス

ベトナムEVビンファスト、対インドネシア投資拡大へ

ワールド

EUメルコスルFTAに暗雲、仏伊が最終採決延期で結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中