最新記事

AI戦争

AI兵器vs AI兵器の戦争は人知を超える(キッシンジャー&エリック・シュミット)

MACHINES DON'T BLINK

2021年11月24日(水)19時10分
ヘンリー・キッシンジャー(元米国務長官)、エリック・シュミット(グーグル元CEO)、ダニエル・ハッテンロッカー(マサチューセッツ工科大学〔MIT〕学部長)
NASAの実験機

自律編隊飛行プログラムで飛ぶNASAの実験機 NASA

<「核より恐ろしい」――既に囲碁やチェスで人間を置き去りにしたAIの知性は、戦争をここまで残酷にする。ヘンリー・キッシンジャー元国務長官とエリック・シュミット元グーグルCEOらの新著から>

人工知能(AI)が戦場に出たらどうなるか。もう人間の出番はなくなるのか。

この究極の問いに、アメリカを代表する戦略家であるヘンリー・キッシンジャー(元国務長官)とAI最前線に詳しいエリック・シュミット(元グーグルCEO)、そしてMITシュワルツマン・カレッジ・オブ・コンピューティング学部長のダニエル・ハッテンロッカーが共著『AIの時代、そして人類の未来(The Age of AI: AndOur Human Future)』で挑み、やはり人間の関与が不可欠との結論を導いた。

以下はその要約。

◇ ◇ ◇

人類の歴史を通じて、国家の政治的影響力は軍事力、すなわち他国の社会に損害を与える能力と結び付いてきた。

だが軍事力に基づく均衡は一定ではない。その均衡が依拠するコンセンサスは、何をもって国力・軍事力・影響力とするかだが、均衡を決定づける力の本質について当事者の意見が分かれると、誤解によって紛争が起きかねない。

近年、コンセンサスの形成を難しくしているのがサイバー兵器の出現だ。こうした技術は民生部門でも用いられるため、何をもって兵器と呼ぶかの定義も定まらない。サイバー兵器の保有やその能力を認めない国が、そうした技術で軍事力を行使、あるいは増強している例もある。

何をもって紛争と呼ぶか、敵が誰で、敵の戦闘能力はどれくらいかなど、伝統的な戦略上の常識が、デジタルの世界では通用しない。

magSR20211124machinesdontblink-3.jpg

エリック・シュミットとヘンリー・キッシンジャー SPENCER BROWN (LEFT), JURGEN FRANK (RIGHT)

現代が抱える大きな矛盾は、社会のデジタル化が進めば進むほど、脆弱性が増す点にある。通信網や発電所、電力網、金融市場、大学、病院、公共交通機関、そして民主的な政治の仕組みすら、多かれ少なかれデジタルに依存するようになっているが、こうしたシステムは不正操作が行われやすく、攻撃にも弱い。

国家であれテロ組織であれ、サイバー攻撃の仕掛け人は自らの能力や活動の全容を明らかにしない。だから新たな能力が開発されても、戦略も行動原理も見えてこない。

ただでさえ複雑なサイバー兵器にAIが本格導入されれば、戦略決定はますます複雑になり、人間の意図はおろか理解さえも及ばなくなる危険性を秘めている。

昔から戦争は不確かで予測不能なものだ。だが戦争を導いてきた論理もさまざまな限界も、これまでは人間が生んだものだった。

しかしAIのアルゴリズムは人間の能力をはるかに超えて複雑なパターンを特定し、あるいは予測できる。だからAIは人間の手に負えない問題を解決し、戦略を立てることができる。

囲碁やチェスの世界では、グーグル傘下のディープマインドが開発したAIプログラムが、専門家も驚くような戦略で人間に勝利したが、安全保障の分野でも同じことが起き得る。その可能性は十分にある。

軍隊や治安当局がAIを訓練、またはAIと連携して予想外の見識や影響力を獲得すれば、驚くと同時に不安な事態にもなるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 5
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 8
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中