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新型コロナに335日、感染しつづけた......慢性化が変異株生むとの指摘も

2021年11月5日(金)15時40分
青葉やまと

数ヶ月のあいだ一貫して陽性を示し続けた...... kieferpix-iStock

<通常数週間で感染性を失う新型コロナだが、稀に慢性化することも>

米メリーランド州の47歳女性が335日コロナに感染し続け、現在確認されているなかで最長の感染期間を記録した。女性は11ヶ月にわたる闘病を経て、すでに快復している。

本症例は、新型コロナへの稀な慢性感染の例として注目を集めている。こうした長期的な感染は、感染者の免疫の状態によっては、デルタ株やアルファ株などに似た変異を生む場合があることがわかってきた。

女性は2020年春、新型コロナを発症し米国国立衛生研究所(NIH)に入院した。通常、症状の重さによって入院期間は異なるものの、重症の場合でも平均21日前後で退院が可能となる。

ところが女性の場合、体調回復のめどが立たず、いったん退院した後も自宅で酸素吸入が必要な状態が続いていた。完治後のコロナ後遺症というわけではなく、検査結果は数ヶ月のあいだ一貫して陽性を示し続けた。次の春が訪れた2021年3月、女性は再びコロナを発症する。

医師は偽陽性を疑ったが......

陽性反応が通常では考えにくいほど長期化しており、さらに、検出されたウイルスの量はごくわずかであった。このことから、女性の症例に注目していたNIHのヴェロニク・ヌッセンブラット医師は、テスト結果を疑った。彼女の専門は感染症だ。すでに死滅したウイルスの遺伝子が体内に残留し、症状が治ってなお検査に反応する「偽陽性」を何度も見てきている。

3月に症状が再発した際にヌッセンブラット医師は、女性がこれまで一貫してウイルスに感染し続けていたのか、それとも偽陽性を経て新たに別のルートで新型コロナに感染したのかを突き止めたいと考えた。

そこで医師は、NIHのラボに勤めるウイルス学者に協力を求める。女性からウイルスのサンプルを採取し、10ヶ月前の初めての発症時に採取していたサンプルと塩基配列を比較した。ラボから届いた分析結果は、同じウイルスであることを示していた。

また、2回目の感染時にはこのウイルス株がすでに市中からほぼ消滅していたため、新たに自然感染するとは考えづらい。これらにより女性は、10ヶ月後に新たに感染したのではなく、長期間コロナに感染し続けていたと結論づけられた。風邪でさえ1年も罹患することは珍しいため、本件でコロナの慢性化を疑うことが遅れた、と医師は振り返る。

ヌッセンブラット医師らは本件をプレプリント(査読前論文)にまとめ、最長の新型コロナ感染例であるとしている。「このシーケンシング(塩基配列解析)データは、当該患者が335日間という長期の感染を明らかに経験しており、これは今日までに報告されているなかで最長の新型コロナウイルスの感染例である」との見解だ。

慢性化は変異とも関連

患者の女性はリンパ腫を患い、3年前にCAR-T療法と呼ばれる治療を受けていた。副作用として、リンパ球の一種であるB細胞の数が極端に少なくなっている。B細胞は免疫システムの重要な役割を担っており、すなわち免疫力が非常に低下していたことを意味する。こうした条件が長期化を招いた可能性がある。

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