最新記事

生態

営農するアリ「ハキリアリ」、そのシャープな歯は金属製だった

2021年10月8日(金)16時20分
青葉やまと

エナメル質では出せない利点が

こうした研究により、ハキリアリの歯は人間の歯と違った方法で硬度を高めていることがわかった。人間の場合も歯はもっとも硬い器官であるが、これはエナメル質によって硬度が保たれている。ライブ・サイエンス誌によるとエナメルは、炭素・水素・酸素原子を核として、周囲をカルシウムとリン酸塩の分子が結晶構造で覆っている。これによって硬度が上がる反面、細く鋭い形状を形成できない制限がある。

一方、ハキリアリの歯はタンパク質の周囲を網目状の亜鉛がコーティングしている。研究チームはこれを「重元素バイオマテリアル」と命名し、エナメル質に匹敵する強度とシャープなエッジを両立できる構造だと述べている。鋭い角度とすることで、最小限の筋肉量でより大きな切断効果を発揮できることが利点だ。

交換の効かない歯、鈍ったときは?

鋭い歯をもつハキリアリといえど、徐々にその切れ味は衰えてゆく。アリは食事にほとんど歯を使用しないが、「農業」を生活の糧とするハキリアリにとって、歯の衰えは死活問題だ。しかし、健康な歯を失ってなおコミュニティの一員として活躍できるよう、「転職」の社会システムがコロニーに備わっている。

歯の劣化にともなって生産性が3分の1ほどにまで落ちると、その個体は葉を切り裂く仕事からお役御免となる。かわりに運び屋などの職業にポジションを変え、別の形でコロニーに貢献できるようになっている。

ハキリアリの職業変更システムについては、2010年の論文で明らかにされた。研究を主導したのは同じくオレゴン大のロバート・スコフィールド博士だ。博士は人間の社会生活とも似たメリットがあるとし、「人は例え特定のタスクをこなせなくなって一人で生きてゆけなくとも、それでも社会に対して意義深い貢献をすることができます」と述べている。

作物の栽培から引退後の再就職まで、ハキリアリは人間社会によく似た社会に生きているようだ。

Close up of leaf cutter ants cutting (from above)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中