なぜ中台の緊張はここまで強まったのか? 台湾情勢を歴史で読み解く

TAIWAN, WHERE HISTORY IS POLITICAL

2021年10月9日(土)09時57分
野嶋剛(ジャーナリスト、大東文化大学特任教授)

210921P18_TWH_04.jpg

1895年、日清戦争の勝利で日本が台湾を領有 ULLSTEIN BILD/GETTY IMAGES

その中途半端さに目を付けたのが「南進」の野望を抱く日本の明治政府だった。1871年、宮古島の島民を乗せた船が漂流し、台湾の先住民族地域に迷い込み54人が殺害された。「懲罰」を掲げた明治政府は初の海外出兵を決断。真の狙いは、清朝が無関心だった台湾の東半分の領有、あわよくば、台湾全体まで手に入れることだった。

1874年、明治政府は多数の軍船を送り込んで先住民族との戦闘に勝利したが、清朝の強い反発と欧米各国の不支持もあって台湾領有は成らなかった。

しかし、日本の南進は止まらず、間もなく琉球王国を廃止して日本に編入。1895年の日清戦争の勝利によって、日本は念願の台湾領有を果たした。

日本統治で豊かに

ここから1945年まで、日本統治は半世紀に及んだ。明治政府は当初、台湾領有を悔やんだとも言われる。日本人の支配に漢人・先住民族らが猛烈に抵抗し、ひどく手を焼いたからだ。

当時の国会で台湾放棄論まで論じられた。それでも、日本にとって初めての植民地台湾の経営を成功させ、世界に日本の「文明度」を示さなくてはならないことが、台湾統治に本腰を入れる理由になった。

1898年、児玉源太郎総督の下、ナンバー2の民政長官に任命された後藤新平は公衆衛生の専門家である自らの知見を基に、上下水道の整備やアヘンの漸禁政策など、台湾を「健康体」とするべく公衆衛生政策に力を入れた。温暖な気候を生かした農業育成のために日本から専門家・新渡戸稲造を呼び寄せるなど、産業振興に努めた。

台湾は日本やもう1つの植民地、朝鮮よりも高い経済成長率を示し、1930年頃になると、1人当たりの国民総生産が日本より高かったという研究もある。日本の沖縄や九州・東北などから、生活の糧を求めて出稼ぎや移民が押し寄せた。教育は広く普及し、台湾人エリートからは、後の総統である李登輝や作家の邱永漢のような優れた人材が育った。

日本が去って中国が来た

せっかく大事に育てた台湾だったが、戦争に敗れた日本はポツダム宣言を受諾し、放棄に追い込まれる。台湾を引き継いだのは中国の支配者・中華民国政府だった。台湾人も「祖国復帰」を大いに喜んだ。

日本統治時代の「国語」は日本語で、庶民の日常会話は台湾語だったが、台湾人の間に新しい「国語」である中国語の学習ブームが巻き起こった。

210921P18_TWH_05.jpg

日本はポツダム宣言を受諾し台湾を放棄(1945年) HULTON-DEUTSCH COLLECTIONーCORBIS/GETTY IMAGES

ところが、そんな蜜月は数年も持たずに終焉を迎える。1947年、中華民国政府(国民党)の腐敗や非効率に怒りを覚えた台湾人たちが抗議の声を上げた途端に、大陸にいた蒋介石はためらわずに弾圧に乗り出す。数万人の死者を出したと言われる「2.28事件」が起きた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB担保評価、気候リスクでの格下げはまれ=ブログ

ワールド

ジャカルタのモスクで爆発、数十人負傷 容疑者は17

ビジネス

世界の食料価格、10月は2カ月連続下落 供給拡大で

ビジネス

ホンダ、半導体不足打撃で通期予想を下方修正 四輪販
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中