最新記事

中国

岸田総裁誕生に対する中国の反応──3Aを分析

2021年10月1日(金)12時02分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

それは取りも直さず、米中覇権競争の中にあって、日本がどのような対中政策に出るかは、中国の今後の国際社会におけるパワーバランスに大きな影響を与えるからだ。特にアメリカにより対中制裁が成されている今、日本との技術提携や日本との交易は中国に多大なメリットをもたらす。

さらに日米豪印4ヵ国枠組みQUAD(クワッド)や米英豪軍事同盟AUKUS(オーカス)などにより、アメリカは対中包囲網を形成しようと躍起になっている。

まして来年は日中国交正常化50周年記念に当たる。安倍元首相が国賓として中国に招かれた返礼として習近平国家主席を同じく国賓として日本に招く約束をしている。コロナの流行でペンディングになったままだが、それを来年には必ず果たしてもらわないと困ると習近平は思っているだろう。

これら複雑な要因が絡み、日本の政権のゆくえが気になってならないものと判断される。

中国の党および政府側メディアの「見出し」以外の補足説明

これら多くの情報は「見出し」を見ただけで、おおよそ何が書いてあるか想像がつくとは思うが、内容的に何を語っているのかに関して「見出し」以外の補足説明を若干行いたい(全てを翻訳したら軽く2万字は超えるので概要を抽出する)。

1.新内閣の外交政策は基本的には何も変わらない。日中関係がさらに悪化することはないだろう。

2.岸田は選挙期間中、中国関連の問題に強硬な態度で臨んだ。 公式Twitterアカウントで中国を攻撃し、「中国が権威主義的になっていること、日本は民主主義や人権などの基本的な価値を大切にする国であること」を宣言し、「台湾海峡の安定、香港の民主化、ウイグル人の人権などの問題に断固として取り組んでいく」と述べた。 また、「尖閣諸島は日本固有の領土であり、それに関する政策を出す」と主張した。

3.しかし、これらは全て総裁選に勝つための方便であって、菅内閣でウイグル人権問題などに関するマグニツキー法は国会の議題にさえならなかった。菅内閣と基本的に変わらない岸田政権は、さらなる対中強硬策を取ることはないだろう。

4.総裁選の議論では、安保やエネルギー問題、年金などの社会保障問題が大きく取り上げられたが、実は誰でも知っているのは、国民の最大の関心事は「コロナにより崩壊しかけている日本経済を、どのようにして立て直し、かつコロナのリバウンドが起きないような対策ができるか」ということに尽きる。

5.日本の最大の貿易国は中国だ。だから岸田は如何にして国民から批判されないようにしながら中国との安定的な関係を築けるかを模索するだろう。日中関係では「首脳同士の会話が必要だ」と、河野以外にも、岸田も言っている。

6.いま日本の新規コロナ感染者の数が減少傾向にあるので、コロナ対策が大きな争点になっていないが、もしコロナ防疫に成功せず、日本経済復興にも貢献できなかったとすれば自民党は来年夏の参議院選挙で国民の審判を受けるだろうから、対中強硬策などより、コロナ感染を抑えることと経済復興に成功することこそが、本当は最大の関心事のはずだ。そのためには中国は欠かせないパートナーとなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、来年も政府債発行を「高水準」に維持へ=関係筋

ワールド

ロシアがウクライナを大規模攻撃、3人死亡 各地で停

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省

ビジネス

三井住友トラスト、次期社長に大山氏 海外での資産運
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中