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再婚で生じるステップファミリーで「子どもの虐待」を防ぐ方法

2021年9月22日(水)18時55分
印南敦史(作家、書評家)


その落とし穴とは、初婚同士の夫婦(両親)とその子どもだけの核家族、つまり、親がふたり揃っている「ふつうの家族」として振る舞おうとすることです。そして、そのように振る舞わせようとする社会からの暗黙の圧力があるため、気づかないうちにその落とし穴の方向に進みやすいのです。(21ページより)

「ふつうの家族」のように振る舞うことが、なぜ落とし穴になるのか。この点は、社会全体が離婚・再婚やステップファミリーという過程をどう見ているか、どう扱っているかと深く関係していると著者は指摘する。

目黒区の事件はその点を考察するうえで重要な事例であり、そこから多くの教訓を導くことができるという。

この事件で保護責任者遺棄致死罪などに問われた継父の公判は、2019年秋に開かれ、法廷での様子はマスコミでも詳細に報じられた。


『朝日新聞』によれば、彼は「結愛ちゃんに『父親が必要だ』と思い」、結愛ちゃんの母親と結婚したと述べています。そして、「『笑顔の多い明るい家庭』にと理想を描いたが、血のつながりがないことを負い目に感じ、それをはね返そうと必要以上にしつけを厳しくした」と陳述しています。
「歯磨きや『食事への執着』について結愛ちゃんを直接しかるようになり、改まらないと『焦りやいらだちが暴力に向かった』」と言いました。同紙によれば、彼は「思い描いた理想を結愛に押しつけてきた。エゴ(自分勝手)が強すぎた」と事件の原因を分析し、「『親になろうとしてごめんなさい』と泣きながら謝罪」したのです。(22ページより)

この「親になろうとしてごめんなさい」という言葉は、象徴的な意味を持っている。陳述を額面どおりに受け取るなら、継父は「親」になろうとしていたということになるからだ。それは、いわゆる「ふつうの家族」になる理想を描いたということでもある。

彼は「血のつながりがないことを負い目に感じ」たというが、継親子に「血縁」がないことが、「ふつうの家族」になれなかった決定的な要因なのだろうか? この点をどう捉えるかが、ステップファミリー理解のための重要なポイントだ。

「ふつうの家族」の固定観念を覆すために

もちろんステップファミリーといっても、その家族形成の道筋は多種多様。しかし、そこには大きく2つのタイプがあるそうだ。ひとつ目は、従来型である「代替モデル/スクラップ&ビルド型」。


このタイプでは、一緒に暮らす世帯(家庭)のメンバーのみを家族の単位とみなし、婚姻カップルの二人だけが親であり、婚姻関係が解消されたら両親の一方は排除され、一人だけが親になります。その親が再婚したら継親ができ、それが「新しい親」として排除された親を代替します。両親と子どもから成る世帯が再現されるパターンです。(170ページより)

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