最新記事

ビジネス

東南アジアで新型コロナ感染がピークアウトの兆し

2021年9月7日(火)14時22分
斉藤誠(ニッセイ基礎研究所)

東南アジア各国はワクチン接種を急いでいるが、ワクチン接種完了者の割合をみると、マレーシアが4割超と日本並みに進んでいるものの、それ以外の国はインドネシアとフィリピンが1割超、タイが9%、ベトナムが1%と低水準にとどまる(図表10)。

変異株の脅威に対してワクチンの有効性は不透明な部分もあるが、ワクチンの普及が進めば経済活動と感染対策を両立しやすくなり、デルタ株の広がりで身動きが取れない現在の状況から抜け出せるようになるだろう。マレーシアでは8月10日からワクチン接種完了者を対象に行動規制が緩和されたが、現在のところ更なる感染拡大の動きは見られない。

製造業購買者担当指数(PMI)東南アジアの製造業PMIは7月に急速に落ち込み、企業マインドが大きく悪化していることが明らかとなった(図表11)。先進国の製造業PMIが拡大基調を維持したのとは対照的な動きである。東南アジア各国ではこれまで感染対策として個人に対する行動制限措置が多かったが、最近は企業の操業にかかわる措置が導入されるようになって生産や投資活動に支障が出ており、サプライチェーンの混乱が生じていることが背景にある。

nissei20210906195111.jpg

近年外資系企業の進出が著しいベトナムでは工業団地に拠点がある製造業は従業員の「労・食・住」を工場内に集約することが操業継続の条件となっているが、この工場隔離を実施した企業では7月以降、感染例が相次ぎ報告されているほか、工場隔離を望まず退職する者も多く、操業を続けることが難しくなっている。今後公表される8月の経済指標では規制強化に伴う生産活動停滞の影響が顕在化するだろう。

東南アジアは電機や自動車など数多くの日系企業が進出しているように、世界の製造業の生産拠点として注目を集めている。しかし、現在のようにデルタ株の脅威に対して都市封鎖など厳しい行動制限措置を実施せざるを得ない状況が続くようであれば、(今後の新たな変異株に対しても)生産基地の役割を担うことが難しいと判断されかねない。また、こうした有事の際の脆弱性が目立つと東南アジアへの進出を躊躇する企業が増えるため、コロナ禍の長期化は東南アジア経済への長期的な打撃となる恐れがある。

[執筆者]
nissei_saitomakoto.png斉藤誠(さいとうまこと)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部准主任研究員


ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 

ワールド

米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示

ワールド

焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換

ワールド

イランとイスラエル、再び相互に攻撃 テヘラン空港に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    【動画あり】242人を乗せたエア・インディア機が離陸…
  • 5
    メーガン妃がリリベット王女との「2ショット写真」を…
  • 6
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 7
    ゴミ、糞便、病原菌、死体、犯罪組織...米政権の「密…
  • 8
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 9
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 10
    先進国なのに「出生率2.84」の衝撃...イスラエルだけ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中