最新記事

マレーシア

東南アジア最悪レベルの感染拡大、マレーシアで何が起きているのか

2021年6月9日(水)18時35分
セバスチャン・ストランジオ
ロックダウン下のマレーシアの商業施設

「完全ロックダウン」で商業施設からも人影が消えた(6月1日) LIM HUEY TENGーREUTERS

<変異株などの拡大で今になって急速な感染拡大に見舞われており、「完全ロックダウン」への反発が政変に繋がる可能性も>

マレーシアは6月1日、2週間に及ぶ全土の「完全ロックダウン(都市封鎖)」に踏み切った。新型コロナの急速な感染拡大で医療機関が逼迫しているためだ。

5月28日、1日当たりの新規感染者数は8290人と4日連続で過去最多を更新。翌29日には9000人を上回った。ムヒディン首相は31日のテレビ演説で「直ちに抜本的措置を講じなければ医療システムが崩壊し、さらなる大惨事を招く」と危機感をあらわにした。

ロックダウン中は食料品など生活必需品を売る店舗のみ営業を認め、外出は居住地から半径10キロ以内に制限。14日までに感染者数が減少すれば、経済活動の完全再開に向けて段階的に操業可能な業種を広げていくという。

マレーシアは2020年のパンデミック(世界的大流行)の際は最悪の事態を免れた。だが最近の感染拡大には感染力の強い変異株も含まれ、封じ込めに苦戦している。イスラム教徒が多数を占めるため、5月中旬のイスラム教のラマダン(断食月)明けの3日間にわたる祝祭「イード・アル・フィトル」も感染拡大に拍車を掛けた可能性がある。

人口当たりの感染者数では最悪

この祝祭前に人の移動を制限する部分的閉鎖が実施されたが、感染拡大は抑えられなかった。公式発表では6月4日の新規感染者数は8209人、累計感染者数は59万5000人に達している。

累計感染者数で見ればマレーシアは東南アジアではインドネシアとフィリピンに次いで第3位だが、人口当たりの感染者数では最悪だ。死者数も東南アジアで4番目に多い。

今回のロックダウンは、昨年の規制の影響から回復し始めたばかりの経済に打撃を与えそうだ。トヨタ自動車やホンダなど日本の自動車メーカーは6月1日からマレーシア工場の操業を停止。20年のGDPはロックダウンの影響で前年比5.6%減と1997~98年のアジア金融危機以来の急激な落ち込みになり、ムヒディンは新たなロックダウンは行わないと断言していた。

今回のロックダウン前日、ムヒディンは400億リンギット(約1兆660億円)の追加経済対策を発表。給付金21億リンギット(約560億円)、一部の融資返済猶予、中小企業への助成金、ロックダウンの影響を受けた人への給与補助が含まれるという。マレーシアは昨年のパンデミック以降、既に3000億リンギット(約7兆9950億円)を超える経済対策を実施している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減との報

ワールド

トランプ氏、USMCA離脱を来年決定も─USTR代

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中