最新記事

ロシア

ロシア、「ドラゴンをなだめる」対アフガニスタン戦略

CALMING THE DRAGON

2021年9月3日(金)16時15分
ヤナ・パシャエバ(ジャーナリスト)

210907P30_RSA_02.jpg

プーチン大統領は数年前からタリバン指導部との間で協力関係を築いてきた ALEXANDER ZEMLIANICHENKO-POOL-REUTERS

ロシア国内では政府がテロリストと交渉したこと、さらには記者会見の場まで与えたことを批判する声も多かった。だがタリバンとしては、ロシアと手を組めて大喜びだろう。

「タリバン政権下のアフガニスタンは国際的に孤立するだろう」と、オマル・ネサル現代アフガニスタン研究センター所長(モスクワ)は分析する。「(そんな中で)中央アジア諸国、とりわけアメリカのライバル国から支持を得られたことは重要だ」

今のところロシアは、タリバン政権を承認することも、タリバンをロシアにおける活動禁止組織から外すことも急いでいないようだ。しかし将来的には、こうした措置を取る可能性はあると、政府関係者はほのめかす。

新たなタリバン政権に対するロシアの態度は、「中央アジア諸国を攻撃しないという約束を守る能力と、他のテロ組織とのつながり、そして米ロ関係」など複数の要因に左右されるだろうと、ネサルは語る。

【関連記事】アフガニスタンはなぜ混迷を続けるのか、その元凶を探る

対アメリカで利害が一致

しばらく前なら、ロシアとタリバンが手を組むことなど想像もできなかった。

ロシアの前身であるソ連は、1979年にアフガニスタンに侵攻して、イスラム主義勢力(アメリカの支援を受けていた)の激しい抵抗に遭い、1989年に撤退を余儀なくされた。10年間に命を落としたソ連兵は1万5000人以上とされる。

しかも、タリバンは前回アフガニスタンの政権を握っていた99年、ロシアからの分離独立を求めるチェチェンのイスラム原理主義勢力を支援し、ロシアに対するジハード(聖戦)を宣言した。

ところが2001年にアメリカがアフガニスタンに侵攻して、タリバン政権を崩壊させると、タリバンは対アメリカで協力できないかと、ロシアに持ち掛けたと、BBCは報じている。ロシア政府はこの提案を拒否したが、近年の米ロ関係の著しい冷え込みを受け、タリバンとの協力に前向きになったようだ。

2017年には、ロシアがタリバンに武器を供給していると、レックス・ティラーソン米国務長官(当時)が批判した。2020年には、ロシアがタリバンに報奨金を払って、アフガニスタン駐留米兵を殺害させているという情報も明るみに出た。

米国防総省は昨年の議会報告書で、ロシアがタリバンの協力を得て「アフガニスタンで影響力を拡大し、米軍の撤退を早めようとしている」と指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井物産、26年3月期は14%減益見込む 市場予想

ビジネス

エアバスCEO、航空機の関税免除訴え 第1四半期決

ビジネス

日銀、無担保コールレート翌日物の誘導目標を0.5%

ワールド

日韓印とのディール急がず、トランプ氏「われわれは有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中