最新記事

アフガン情勢

バイデン=アフガン大統領、最後の電話会談が示した危機意識欠如

2021年9月1日(水)10時32分
アフガニスタン民主政権の大統領だったアシュラフ・ガニ氏(左)と会談するバイデン大統領

バイデン米大統領が、アフガニスタン民主政権の大統領だったアシュラフ・ガニ氏と最後に行った電話会談では、軍事支援や政治方針など幾つかの問題が議論されたものの、2人とも目前に迫っていたアフガンを揺るがす危機を感得し、これに備えていた様子は見えなかった。ロイターが会談の記録を入手して分かった。写真は6月、訪米したガニ氏(左)と会談するバイデン大統領。ホワイトハウスで撮影(2021年 ロイター/Jonathan Ernst)

バイデン米大統領が、アフガニスタン民主政権の大統領だったアシュラフ・ガニ氏と最後に行った電話会談では、軍事支援や政治方針など幾つかの問題が議論されたものの、2人とも目前に迫っていたアフガンを揺るがす危機を感得し、これに備えていた様子は見えなかった。ロイターが会談の記録を入手して分かった。

電話会談は7月23日に約14分続いた。8月15日にはガニ氏が首都カブールの大統領府から逃げ出し、入れ替わるようにイスラム主義組織タリバンが侵攻。それ以来、絶望した何万人ものアフガン人が国外に脱出したほか、カブール国際空港付近で起きた自爆攻撃によって米兵13人と多数のアフガン市民が犠牲になるなど緊迫した事態が続いている。

バイデン氏は電話会談で、ガニ氏が悪化の一途をたどっていた治安情勢をコントロールするための具体的な計画を示せるなら助太刀は惜しまないと表明。「われわれがその計画を把握できるなら、緊密な航空支援を提供し続ける」と発言していた。実際その数日前には、米軍が空爆でアフガン政府部隊を支援し、タリバン側が和平協定違反だと反発した。

またバイデン氏は、米政府が訓練制度や資金をやりくりしたアフガン陸軍を絶賛して、ガニ氏に「最高の軍を手にしているのは間違いない」と伝え、その30万人の良く装備された部隊は70万-80万人の敵に対して十分に戦えると断言した。ところが結局、アフガン政府軍は国内の各主要拠点でタリバンとろくに戦闘を交えないまま、あっという間に瓦解してしまった。

一方でバイデン氏はアフガン政府の現状認識に甘さがある点を強調し、このままではタリバンとの対決がうまくいかないとガニ氏に忠告したもよう。ただこうした態度は、バイデン氏が23日後に劇的な政変が起こり、肝心の民主政権がなくなってしまうとまでは予想していなかったことを物語っている。電話会談における「われわれは外交、政治、経済の面で懸命に戦い続け、あなた方政府が生き残るだけでなく、長続きして発展できる道を確保していく」というバイデン氏の発言も、今ではむなしく響くばかりだ。

これに対してガニ氏は「われわれは、パキスタンによる作戦、補給面の支援を受けたタリバンと、主にパキスタン人からなる少なくとも1万から1万5000人の国際テロリストによる全面的な侵略に直面している」などと訴えていた。当時のアフガン政府当局者や米国の専門家は、タリバンが再び力を持った重要な要因の1つとして一貫してパキスタンの支援を挙げていた。

在ワシントンのパキスタン大使館は、こうした説を真っ向から否定。大使館の報道官はロイターに「タリバン戦闘員がパキスタンから越境攻撃してくるという話は、残念ながらガニ氏が自らの指導と統治の失敗を正当化するための言い訳や後知恵なのは間違いない」と語った。

ロイターは今回の件でガニ氏のスタッフに電話や書面で接触を試みたが、連絡はつかなかった。現在アラブ首長国連邦(UAE)に滞在しているとみられるガニ氏が最後に公式声明を発表したのは8月18日。この時、アフガンから脱出したのは流血を避けるためだったと述べた。

ホワイトハウスは、電話会談についてコメントを拒否した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・タリバン大攻勢を生んだ3つの理由──9.11以来の大転換を迎えるアフガニスタン
・タリバンが米中の力関係を逆転させる
・<カブール陥落>米大使館の屋上からヘリで脱出する「サイゴン陥落」再び


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英建設業PMI、11月は39.4 20年5月以来の

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中