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院政目指す?ドゥテルテ軸に展開する2022比大統領選 カギ握るは大統領の長女

2021年9月14日(火)19時41分
大塚智彦

この中で大統領選はドゥテルテ大統領、野党「自由党」のレニー・ロブレド副大統領、さらにモレノ市長、マニー・パッキャオ上院議員の名前を挙げている。

モレノ市長はスラム街「トンド」出身で運転手を経て俳優になったという特異なバックグランドをもち「清廉な政治家」として人気がある。ドゥテルテ大統領の副大統領候補出馬などの動きに「王朝のような政治体制は民主主義と相容れない」と否定的立場を表明しており、野党の立場での立候補が期待されている。

一方、パッキャオ上院議員は6階級制覇を成し遂げた世界的なプロ・ボクサーでフィリピンでは国民的英雄として知名度、人気が高い。

フィリピン・スター紙はこの4人を軸にすでに大統領選に立候補を表明しているパンフィロ・ラクソン上院議員が今後大統領選に関係してくるとして注目している。ラクソン議員は副大統領候補としてソット上院議員とペアを組むことを明らかにしている。

フィリピンの大統領選は正副大統領が一応ペアを組むものの、各自での立候補となり、個別の投票を得てそれぞれ最高得票獲得候補者が当選する仕組みとなっている。

大統領は憲法の規定で1期6年に制限されていることからドゥテルテ大統領は再出馬できない。しかし副大統領には出馬できることから今回の出馬指名の受諾となった。副大統領は2期まで務めることができる。

台風の目になるかドゥテルテ大統領長女

さらに同紙は今後の動向がもっとも注目される存在としてドゥテルテ大統領の長女で南部ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長を取り上げている。

各種世論調査で常に大統領候補としてトップの人気を誇るサラ市長だが、これまでのところ「大統領選には出馬しない」との姿勢を見せている。だが最近の報道では「父(ドゥテルテ大統領)が副大統領選への」出馬を取りやめれば出馬するのではないか」との観測が強まっている。

というのもサラ市長はかねてから「父娘が2人とも正副大統領選にでることは考えられない」としていたことや地方政党「改革党」所属で「出馬の要請はいろいろな政党からきている」ことを明らかにしていたことなどから、今後情勢が変化すれば「出馬もありうる」とみられているのだ。

ドゥテルテ氏が副大統領に固執する理由

副大統領候補に正式に出馬することになったドゥテルテ大統領だが、政権中枢に残ることで大統領在職中の問題に対する世論の反発や司法の訴追を回避したいとの思いが根底にあるといわれている。

特に2016年の大統領就任以来積極的に進めてきた麻薬犯罪対策で、捜査現場で警察官などによる司法の手続きを無視した射殺という「超法規的殺人」を黙認、国際社会や人権団体から非難を浴びている問題や反ドゥテルテ大統領のメディアに対する弾圧などが大統領職を辞することで一気に噴き出す可能性がある。このため副大統領に留まることでそうした事態を避けようというのだ。

いずれにしろ10月1日の大統領選候補届け出まで残り少ない時間で与野党は候補者選定、絞り込みを迫られており、目が離せない状況となっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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