最新記事

アフガニスタン

タリバン勝利の裏に習近平のシナリオーー分岐点は2016年

2021年9月6日(月)20時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

上海協力機構は9月1日のコラム<独立の祝砲に沸くタリバンに中国はどう向き合うのか?>にも書いたが、「国境地区における軍事分野の信頼強化に関する協定」(上海協定)の調印を目的に1996年4月に上海で集った上海ファイブ(中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタンの5ヵ国首脳会議)が前身となっている。このことからもわかるように、中国とロシアが主体の反テロ組織でもあり、NATOに対抗する組織でもある。さらに言うなら、第一回目の会合が上海で開催されたことからもわかるように、スタートは中国が主導している。

協力に感謝したのか、習近平は2018年6月にプーチンに友誼勲章を授与し、プーチンはまた習近平との関係に関して「歴史上、未だかつてないほど中露は緊密だ」と絶賛している。

トランプのノーベル平和賞への渇望を利用か?

一方、アフガニスタンを占領していた肝心のアメリカでは、2016年5月からドナルド・トランプ氏が大統領立候補への選挙活動を開始し、その際に外交問題に関してキッシンジャーの教えを乞うている(詳細は拙著『習近平vs.トランプ』)。キッシンジャーはベトナム戦争を和平交渉で終わらせた功績によりノーベル平和賞を受賞した人物だ。激しいライバル心を抱いていたオバマ元大統領もまた、大統領に就任して間もない2009年10月にノーベル平和賞を受賞している。たかだか2009年4月にプラハで「核なき世界」に関する演説をしただけでノーベル平和賞がもらえるというのなら、自分も解決できていない紛争問題に関して平和的解決策を見つければ、きっとノーベル平和賞をもらえるに違いないと、トランプが渇望しても不思議ではないだろう。トランプにはビジネスマンとしての業績があり、あと欲しいのは名誉だけのようなものだったのだから。

実際、安倍元首相に頼んでノーベル平和賞候補にノミネートしてもらい、それを自慢気にばらしてしまったことから見ても、トランプがいかに受賞を渇望していたかは想像に難くない。

その証拠に、大統領選挙演説のときからトランプは「金正恩とハンバーガーを食べながらお喋りしてもいい」という主旨のことを何度か言っていた(参照:2017年5月3日のコラム<トランプは金正恩とハンバーガーを食べるのか?>)。

今ではもう音信が途絶えてしまった中国共産党の老党員は、そのころ筆者にしきりに「トランプがノーベル平和賞を欲しがっていることに中国は注目している」と知らせてくれたし、「もっとも、北朝鮮問題が解決してしまうと、アメリカの軍産複合体が武器弾薬を生産する口実が無くなるので困るだろうが...」と笑ってもいた。たしかに、金正恩とハンバーガーを食べながらお喋りをする機会はなくなってしまったが、しかしアメリカには長年抱えてきたアフガン問題がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都

ビジネス

豪年金基金、為替ヘッジ拡大を 海外投資増で=中銀副
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中