最新記事

アフガニスタン

タリバン勝利の裏に習近平のシナリオーー分岐点は2016年

2021年9月6日(月)20時03分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
習近平国家主席

習近平国家主席 Jason Lee-REUTERS

タリバン勝利の舞台裏には習近平が描いたシナリオがある。きっかけは2016年における米軍によるタリバンのマンスール師暗殺だ。トランプ前大統領に米軍撤退を決意させるまでの、習近平の周到な戦略を考察する。

2016年、マンスール師殺害で中国に助力を求めたタリバン

2016年5月21日、まだオバマ政権下にあったアメリカ軍は、アフガニスタンとパキスタンの国境地帯で、当時のタリバンの最高指導者だったマンスール師をドローン(無人機)攻撃によって殺害した。これによりタリバンを和平交渉のテーブルに着かせるという考えを、アメリカは捨てたのかとみなされた。

というのは紆余曲折を経ながら、2016年1月には、ようやくアフガニスタン政府とタリバンの和平に向けたロードマップの確立を目指して、アフガニスタン、パキスタン、アメリカ、中国が一堂に集まった4ヵ国会談がパキスタン主催で実現したばかりだったからだ(Pakistan hosts four-way Afghanistan peace talks)。タリバンはアメリカの傀儡政権であるアフガニスタン政府とは話したくないとして出席していない。

このような中、最高指導者のマンスールをアメリカに殺害されたタリバンの代表団は、2016年7月18日から22日にかけて訪中し、中国に助けを求めた。ロイターなどいくつかの英文メディアが伝えた。

このときタリバン側は中国に以下のように依頼している。

――われわれは、世界のさまざまな国と良好な関係にある。中国も、その一つだ。アフガニスタンは(アメリカ軍やNATO軍)などの外国の軍隊により占領され、その侵略軍によって残虐行為を受けている。われわれが侵略軍から自由になれるように助けてほしい。どうか国際会議などで、この実態を取り上げてほしい。

不思議なことに、中国はこれに関していかなる公式発表もしてない。

なぜだろうか。

アフガン政府を応援してきた習近平政権

なぜなら、今年4月30日のコラム<米中「悪魔の契約」――ウイグル人権問題>にも書いたように、中国はそれ迄ひたすら新疆ウイグル自治区にいるウイグル族がアフガニスタンのイスラム教過激派と連携して「東トルキスタン・イスラム運動」を起こし、中国から分離独立しようとしているとみなしてきたからだ。だから「東トルキスタン・イスラム運動」を弾圧するためなら、どのような勢力とも手を結んできた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「ディール」迫るトランプ氏、ゼレンスキー氏は領土割

ビジネス

アングル:屋台販売で稼ぐ中国の高級ホテル、デフレ下

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中