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アングル:主人公を蘇生し結末改変も、ボリウッド「生成AI」化の最前線

2026年04月10日(金)12時04分

インドのベンガルールで、生成AIにより製作中の「マハーバーラタ」の一場面。3月26日撮影。REUTERS/Priyanshu Singh

Munsif Vengattil

[ベン‌ガルール 4日 ロイター] - カメラやカチンコ、飛び交う指示出しの大声に代わって、機材が発する低音だけが響く「映画撮影現場」へよう‌こそ。

インド映画界、いわゆる「ボリウッド」の大手タレント事務所コレクティブ・アーティスト・ネットワークは長年、実在する「生身」のスーパースターらのキャリアを支えてき​た。そしていま創造しているのは、デジタル世界のスターだ。

南部ベンガルールにある同社の拠点ではAIツールを駆使し、同国で人気の神話に基づいたコンテンツを製作している。ヒンドゥー教の聖典「ラーマーヤナ」を題材にしたある映画では、サルに似た姿をしたハヌマーン神が山を抱えて空を飛び、古代叙事詩「マハーバーラタ」を題材とした⁠映画では、盲目の王と婚姻するため自らも目隠しをすることを選んだ王女ガンダーリが登場する。

イン​ドは世界で最も多くの映画を製作しており、シャー・ルク・カーンやアミターブ・バッチャンといったスターらは熱狂的な人気がある。だが多くの業界関係者によれば、ストリーミングの普及による視聴スタイルの変化が製作予算を圧迫しているという。

コンサルティング会社オーマックス・メディアによると、映画館の観客数は2019年の10億3000万人から、25年には8億3200万人に減少。昨年の興行収入は過去最高の14億ドルに達したものの、新型コロナウイルスの感染拡大以降の収益は不安定で、一握りのヒット作と高価なチケットに依存しているのが現状だ。

インドのスタジオは、他国を圧倒する規模でAIを導入することで、この状況を打開しようとしている。生成AIをフル活用した映画製作、多言語展開のためのAI吹き替え、さらには収益拡大を狙った旧作ラストシーンの再構成など、その手法は多岐にわたる。

こうした取り組みを通じて、インド映画業界は製作のコスト構造を根底から塗り替え、製作期間の短縮を実現した。

一方でAIによる効率化は、ある根深い問題に直面⁠している。観客からの厳しい批判だ。

「神話やファンタジーといったジャンルでは、AIによって製作コストが従来の5分の1に減った」。コレクティブのAIによる映画スタジオ「ギャラリー5」を率いるラフル・レグラパティ氏はそう語る。製作期間については「4分の1まで短縮された」と言う。

ハリウッドではこれとは対照的に、労働組合との契約や「AIに仕事を奪われる」という懸念から、スタジオ側もAIの活用に慎重にならざるを得ない状況にある。一方、インドでは少なくとも1社の大手製作会社がAIによる旧作の再編集を検⁠討している段階だ。グーグ​ル、マイクロソフト、エヌビディアといった企業も地元の映画製作会社と提携することで、いち早くこの分野への投資に乗り出している。

米英のスタジオもAI映画製作の実験を行っており、2024年には初の長編AIアニメーション作品、25年にはAIを駆使した体験型「オズの魔法使い」が上映された。 

だがインドの映画製作者らの野心はレベルが違うと、英レディング大学の映画・AI研究者ドミニク・リース氏は語る。「インドで成果が出れば、AI映画製作の主導権が移るだろう」と同氏は言う。

同国でAI活用が加速している背景には、この技術を広く受け入れようとする国全体の姿勢がある。インドは「AIを積極的に活用することで、短期間の混乱を補って余りあるほどの機会を生み出す」という賭けに出た。米コンサルティング会社EYの分析によると、AIは中期的にはインドのメディア・娯楽企業の収益を10%押し上げる一方、コストを15%削減する可能性がある。

ボリウッドの映画製作会社アバンダンティア・エンタテインメントは3年以内に収益の3分の1をAIによって生成または支援されたコンテンツが占めると予想する。

<旧作に新しい結末を>

インドの映画会社で米株式市場に上場するエロス・メディア・ワールドは昨年、13年のヒット作「ラーンジャナー」にAIによる改変を加えて再公開した。オリジナルでは主人公が死ぬという悲劇的な結末だったが、新たなラストシーンでは、涙ながらに微笑む恋人の前で、死んだはずの主人公が目を覚ますという驚きの展開⁠が描かれている。

この改変は反発を招いた。主演俳優のダヌシュはXで、AIによるリメークは「映画から魂を剥ぎ取った」ものであり、「芸術とアーティストの両方にとって極めて憂慮すべき先例」を作ったと述べた。

それでも、「ラーン‌ジャナー」のリメイク版は観客を呼び寄せた。インド最大の映画館チェーン、PVRイノックスによると同作のタミル語版は公開初月の8月、座席販売率が35%に達した。これは25年の平均を12ポイント上回る数字だ。

エロス・メディアはさらに踏み込もうとしている。同社のグループCEOであるプラディープ・ドゥイベ⁠ディ氏はロイターに対⁠し、スタジオが保有する3000本の旧作を精査し、「AI支援による再構成に適した候補を特定している」と話した。同グループのインド部門であるエロス・インターナショナルは昨年、連結営業収益が44%減少したことを受け、「デジタルプラットフォームとの競争」が発生していると警告した。

「これは収益の機会であると同時に、クリエーティブな刷新戦略でもある」とドゥイベディ氏は述べた。

こうした改変は、ハリウッドでは壁に阻まれる恐れがある。米俳優組合(SAG─AFTRA)との合意に基づき、映画スタジオは出演者の同意なしにデジタルで演技を改変したり、デジタル複製を作成したりすることはできない。全米監督協会の契約でも、スタジオが監督に相談せずにクリエイティブな決定にAIを使用することを禁じており、AIが組合員の仕事をすることも認められていない。

対照的に、インドの映画スタジオはAIを用いた積極的な実験に取り組んでいる。数億人もの敬虔な信奉者を抱えるヒンドゥー教の神話もその題材だ。コレクティブはハヌマーンやクリシュナといった神々を描いた8つのAI生成作品を計画している。

インドの大富豪ムケシ‌ュ・アンバニ氏率いる大手財閥リライアンスとウォルト・ディズニーの合弁メディア会社ジオスターは、古代ヒンドゥー叙事詩「マハーバーラタ」のAI生成版を放映している。これはコレクティブの映画用AI研究部門から生まれた初のシリーズ物だ。

王位​継承戦争を描いたこの物語‌のAI版は、10月にジオスターの配信サイトで公開されて以来、少なくとも2650万回の視聴を記録したと⁠いう。1988―90年に放送された旧版は2億人の視聴者を集めていた。

だが、この番組に対する観客の評価は厳しい。映画情報サイト「IMDb」での評価は10点満点中1.4点に​とどまっており、レビュアーからはリップシンク(口の動きとセリフの同期)が不十分だとの批判や、低品質な画面があるといった指摘もある。

ジオスターの幹部アロック・ジェイン氏はロイターに対し、反応は「称賛と並んで、建設的な議論が巻き起こっている。野心的なクリエイティブの飛躍には当然のことだ」と語った。AI活用によるオリジナルストーリーの製作も検討しているという。

業界関係者には、映画製作におけるAIの台頭を嘆く人もいる。ハリウッドのスタジオと仕事をしてきた米国の脚本家兼プロデューサーのジョナサン・タプリン氏は、長編全編をAIで生成することは「映画史に対する冒涜(ぼうとく)だ」と批判。「映画館やスクリーンは、ありきたりな駄作で埋め尽くされるだろう」と警告した。

<AIによる吹き替え>

映画界がAIを受け入れるに当たり、比較的抵抗の少ない足がかりとなるのは吹き替えへの活用かもしれない。

インドには22の公用語と数百の方言があるため、国内で大ヒットさせるためには吹き替えが不可欠だ。観客は長い間、セリフと口の動きが一致しないことに不満を抱いてきたが、AIがこの問題の解決に一役買っている。

ベンガルールにあるAI新興企業、ニ‌ューラルガレージはインドの大手映画スタジオに吹き替えを提供している。同社の共同創設者スバブラタ・デブナス氏はロイターに対し、AI生成のキャラクターが英語で話す映像を披露した。次にドイツ語の音声を重ねると、数分のうちにキャラクターは口や顎の動きがぴたりと一致した状態で、流ちょうなドイツ語を話し始めた。

デブナス氏によれば、この技術は「その人の演技、アイデンティティー、話し方を維持したまま」、吹き替えが自然に見えるよう顔を変化させることができるという。

コレク​ティブはマイクロソフトとも協力しており、協業を通じ「次世代の物語表現」を支援するためにAIコンピューティング能力を提供していると述べた。

テキスト指示(⁠プロンプト)だけでは不可能な、緻密な描写を追求するため、コレクティブは実写とデジタルアニメーションを組み合わせたハイブリッド方式を採用している。俳優がセンサー付きのモーションキャプチャースーツを着て身体の動きを3Dデータとして記録し、スマートフォンで顔の表情を撮影する。このデータを製作過程に投入することで、AI生成キャラクターの動きをきめ細かく制御できるようになる。

<レッドカーペットに現れたテック大手>

波紋はスタジオの外にも広がっており、米ロサンゼルス、仏カンヌ、スペインのバルセロナなどの都市で、AIが生成した短編映画を上映する映画祭が盛んに開催されている。インドでは昨年11月にムン​バイのロイヤル・オペラ・ハウスで初めて開催され、若き製作者らが踊るロボットと共にレッドカーペットを歩いた。

2月、ニューデリーで開催された第2回インドAI映画祭では、新進気鋭のAI映画製作者らに混じって、米半導体大手エヌビディアのグローバル副社長プラディープ・グプタ氏の姿もあった。同氏は聴衆に対し、誰もが製作に「多額の資金を投じることなく」本格的な作品を創造できるよう、同社が技術コストの大幅な削減に取り組んでいると語った。

ボリウッドの監督アヌラーグ・カシャップ氏はロイターに対し、インドの映画製作におけるAIの成長と、その利用に関する「歯止め」の欠如に強い懸念を表明した。ただ、映画スタジオがこの技術を導入する経済的合理性については、不承不承ながらその正当性を認めた。

「インドでは、映画は芸術ではない。純粋なビジネスだ。だからこそ、製作会社は神話の世界を描くためにAIを駆使するだろう」とカシャップ氏は話した。「インドの観客は、そういうものに目がないのだから」

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