焦点:日本が直面した複雑な力学、中東対応の実情 あすから米イラン交渉
写真は京浜工業地帯の製油所の近くを航行する小型タンカー。3月17日、東京で撮影。REUTERS/Issei Kato
Tamiyuki Kihara
[東京 10日 ロイター] - 米国とイランの和平交渉が日本時間11日に始まる。2カ月半以上続く中東危機は、原油や石油製品の価格高騰を通じて日本経済を直撃しており、政府・与党内では恒久的な停戦を切望する声が広がっている。関係者らが明かした政府内のこれまでの対応をたどると、米国と中東諸国の複雑な力学に左右され、日本が主体的な選択肢を持ち得なかった実情が浮かび上がる。政府は1月時点で米国の軍事行動の可能性を察知していたが、紛争の当事国ではないが故、影響力には限界があった。
<「何かが起こる」>
「米国がイランを攻撃するかもしれない」。今年1月、日本政府内に緊張が走った。イラン国内で発生した数年ぶりの大規模な反政府デモに対し、トランプ米大統領が「対応」を検討していると報じられた。匿名を条件に取材に応じた関係者によれば、政府が米イラン衝突を現実的なリスクとして意識し始めたのはこの頃だった。
国家安全保障局(NSS)や外務省を中心に、米ワシントンや関係国の在京大使館などからの情報収集に本腰を入れた。1月下旬には米原子力空母「エイブラハム・リンカーン」と数隻の誘導ミサイル駆逐艦が中東地域に到着。「もう米国も引くに引けなくなるだろう。何かが起こる」との認識が政府内に共有された。
ただ、情報は錯綜し続ける。2月に入った直後には米イランの間で交渉が始まり、イラン側は「数日以内に成果が出ることを期待している」と衝突回避の見通しを表明していた。一方、イスラエルはイランの核開発放棄に強い懐疑を示し続けた。核協議は進展と後退を繰り返し、最終的に2月28日の開戦に至った。
<「さらに遠い世界」>
紛争の当事国ではない日本にとって、直ちに対応が迫られた課題は二つあった。一つは約3週間後に控えた高市早苗首相の訪米にどう備えるか。もう一つは、原油輸入の9割以上を中東に頼る日本にとって「生命線」とされるホルムズ海峡の航行の安全確保だ。
日米首脳会談については、米のイラン攻撃に対する国際法上の評価を避けつつ、トランプ氏に中東地域の平和と安定の実現を求めることで一定の距離感を保った。一方、ホルムズ海峡は一筋縄ではいかなかった。歴史的な友好関係を背景に、政府は3月9日以降、茂木敏充外相がイランのアラグチ外相と計3回電話で会談。4月8日には高市氏がペゼシュキアン大統領との電話会談に臨んだが、航行再開の見通しは立っていない。
「紛争当事国ではない日本にできることには限界がある」。関係者はそう漏らした。
事態を一層複雑にしているのが、イスラエルとレバノンの応酬だ。米イラン以外の当事国による衝突は、日本の影響力が一段と及ばない「さらに遠い世界」となる。
関係者の間では、この応酬によって米イラン交渉が頓挫し、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化しかねないとの警戒感が強い。関係者の一人は「すごく複雑な要素が絡み合った結果として情勢がまた悪化、長期化していく難しさを感じている」とした上で、イスラエルやレバノンに対する日本の外交的アプローチの可能性について、「それは非常に難しい」と述べた。
<「うまくいってもらわないと」>
米イランの交渉開始を前に、日本国内では原油や石油製品が不足することへの不安が高まり続けている。
高市氏は10日朝、首相官邸で開いた中東情勢に関する関係閣僚会議で、ホルムズ海峡を経由しない原油の代替調達などを通じ、「年を越えて石油の供給を確保するめどが付いている」と改めて強調。5月上旬以降20日分の石油備蓄を放出する方針も表明した。
ただ、「安心」を訴える政府と実際に原油や石油製品を扱う現場との認識には乖離があるとの指摘も出ている。
「操業を断念し外地で停泊し、状況を見守る船も出てきている」。自民党が9日夕に開いたイラン情勢に関する関係合同会議で、水産業者などでつくる業界団体の幹部は集まった国会議員に向けてこう訴えた。遠洋漁業を行う船の中には、急騰した燃料が入手できずに寄港を諦め、現地にとどまっているものもあるという。
国内の海上輸送を担う業界団体は、すでに9割の業者が燃料調達価格の上昇に直面し、8割以上が将来的な運航サービスへの影響を懸念しているとの調査結果を提示。「持続的な経営を行うための支援」を求めた。
11日以降の情勢次第では、政府は新たな対応を迫られる可能性もある。石油製品ナフサの不足がこのまま深刻化すれば、医療用製品や食品包装用容器などへの影響は避けられない。同会合に出席した自民の衆院議員は米イランの交渉を念頭に、こう焦燥感を吐露した。「うまくいってもらわないと困る」
(鬼原民幸 取材協力:竹本能文 編集:久保信博)





