最新記事

アート

圧倒的に保守的な土地で、「多様性」を前面に掲げて大成功した美術館

A Soldier in Culture Wars

2021年8月20日(金)11時24分
ハンク・ギルマン(本誌編集ディレクター)

性的少数者をサポートする主張も行っている。

アーカンソー州で4月、性同一性障害の子供が思春期を迎えたときにホルモン剤など第2次性徴を抑える薬を処方することを禁止する州法が成立したことには賛意を示し、「私たちは、全ての性的少数者がコミュニティーの一員として大切にされ、尊重されるよう支援する」との声明を発表した。

クリスタルブリッジズ美術館のエグゼクティブディレクターを務めるロッド・ビゲローは、もっと早くこうした声明を出すべきだったと語る。それでも、美術館が地元の問題について明確な姿勢を示すいい前例になったという。

右傾化を強める共和党の地盤で、美術館と社会正義を求める活動はどのようにして結び付いたのだろうか。

「この美術館は、全ての人を歓迎するという使命のもとに設立された。開館した日からその使命に導かれている」と、ウォルトンは言う。

210824p46_cw04.jpg

創立者のウォルトン COURTESY OF CRYSTAL BRIDGES

筆者は1980年代にウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者として、初期のウォルマートを取材した。アメリカの田舎の絵に描いたようなダウンタウンを破壊したと、非難され始める前のことだ。

その後、ベントンビルは大きく変わった。アーカンソー州北西部を訪れた最初の数回は、モーテルに泊まったこともあった。枕元のテーブルには聖書と、竜巻に関する注意書きが置かれていた。

今年の5月は現代的なホテルに泊まった。洗練されたダウンタウンには流行のレストランやショップが並ぶ。ただし、変わっていないものもある。

民主党を支持するなら注意が必要な土地

あなたが少しでも民主党に共感を覚えるなら、ベントンビルでは慎重に行動したほうがよさそうだ。南部の多くの地域では、大学フットボールより深刻な話題を口にするときには深呼吸しよう。アーカンソーは昨年の大統領選で、ドナルド・トランプがジョー・バイデンに30ポイント近い差をつけた州だ。

英ガーディアン紙によると、ベントンビルのある中学校は卒業アルバムに掲載した写真の説明で、BLMのデモ参加者を「暴徒」と呼び、「トランプ大統領は弾劾されなかった」と書かれている。

来年の州知事選には、トランプの大統領報道官を務めたサラ・サンダースが出馬を表明している。そして州旗には、アーカンソーが南北戦争で北部に敗れた南部の「アメリカ連合国」の一員だったことを示すデザインがされている。

そうした土地柄にもかかわらず、リベラリズムやウォークの意識が進化したのはなぜなのか。

その原動力の1つは、全ての来館者にとって安全な場所にするというウォルトンの設立当初の思いだと、クリスタルブリッジズ美術館の人々は語る。黒人、白人、ゲイ、ストレート、アジア人、ヒスパニック......全ての人に。

しかし開館から4年後、アートの世界全体に警鐘が鳴らされた。15年にアンドルー・メロン財団と米美術館長協会が、アメリカの美術館のスタッフは非ヒスパニック系の白人が70%以上を占めるという調査結果を発表したのだ。美術館は圧倒的に白人の世界だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国防総省、パランティアのAIを指揮統制システムに

ビジネス

米ユナイテッド航空 、秋まで運航便5%削減 中東情

ワールド

米政府、輸送中のイラン産原油売却を容認 30日間の

ワールド

米、イラン戦争の目標達成に近づく=トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 8
    将来のアルツハイマー病を予言する「4種の先行疾患」…
  • 9
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 8
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中