コラム

どんどん不自由になる日本の表現の自由

2021年06月14日(月)15時26分
ソウルの慰安婦像

慰安婦を表現した少女像の展示がまた脅迫の対象に(写真は、韓国・ソウルの慰安婦像) Kim Hong-Ji-REUTERS

<署名を偽造したり脅迫したり、「反日」を潰すために右翼は手段を選ばなくなってきている>

6月10日、今月25日から東京都新宿区で開催予定だった「表現の不自由展」の実行委員会が緊急記者会見を行い、会場での妨害行為が頻発しているなどの理由で、開催場所の変更を行わざるをえなくなっていると発表した。

「あいちトリエンナーレ」での「表現の不自由展」への妨害

「表現の不自由展」は、元々は2019年の「あいちトリエンナーレ2019」の中で行われた企画だった。過去に様々な理由で展示を問題視された作品、またはそれにちなんだ作品を集めて展示するという内容だ。

この企画は、多くの右派市民の反発を招いた。特に彼らの感情を逆撫でしたのは、2つの作品だった。日本政府が世界各国でその設置を妨害し続けている、日本軍「慰安婦」を含む全ての戦時性暴力被害者を象徴する「平和の像」。また、昭和天皇の図像を使った作品が、いわゆる「菊タブー」によって、美術館の展示を問題視されたことを風刺した映像作品「遠近を抱えて PartⅡ」。しかしその文脈は正しく読み解かれず、単に天皇の写真をガスバーナーで燃やしているという表層だけ見られて攻撃されたのだった。

「あいちトリエンナーレ」で芸術監督を務めた津田大介によれば、実行委には大量の脅迫FAXや脅迫メールが届いた。会場には妨害する右翼たちが集まり、警備上の問題もあったため、企画展は一時中止を強いられることとなった。

愛知県知事へのリコール運動と、偽造署名問題

右翼の批判は、「あいちトリエンナーレ」に会場を貸し、補助金を出して開催を支援した愛知県にも向かった。大村秀章愛知県知事は、文化芸術を振興する際に県がその内容に口出しすべきではないという原則的立場に立って、「あいちトリエンナーレ」の中止を求める声を退けた。そのことによって大村知事は右派の怒りを買い、整形外科医の高須克弥を中心に、河村たかし名古屋市長も参加する知事のリコール運動が起こった。河村市長は、「あいちトリエンナーレ」に対する市の補助金を取り下げていた。

しかし、この運動には当初から不正疑惑があった。署名数が規定数に達せず、リコールは失敗に終わった。そしてその後、リコール組織委がアルバイトを使って大量の偽造署名を作成していたことが明らかになった。今年の5月19日、元日本維新の会の田中隆博組織委員長が、首謀者として逮捕された。田中委員長は高須院長も偽造を知っていたと周囲に漏らしており、関与が疑われている。さらに、河村市長も知っていたのではないかという疑惑もある。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送ウォーシュ氏、FRB議長就任前に理事ポスト着任

ワールド

トランプ氏「利下げに前向きと確信」、次期FRB議長

ビジネス

米PPI、12月は前月比0.5%上昇 5カ月ぶりの

ワールド

FRBの利下げ見送りは失策、ウォーシュ氏は議長に適
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story