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座談会

2012年震災後の危機感と2021年コロナ禍の危機感、この間に何が変わったか

2021年8月11日(水)17時10分
田所昌幸+武田 徹+苅部 直+小林 薫 構成:髙島亜紗子(東京大学大学院総合文化研究科グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ特任研究員)

■田所 苅部さんはどうですか。

■苅部 今号の論考でインパクトがもっとも大きいのは、特集には含まれませんが、北岡伸一先生の「西太平洋連合を構想する」でしょう。

インドから東南アジア、オーストラリア、日本という範囲の国々が外交政策を統一して、EUに近い枠組を作るという構想。もしも現実に、日本の外交と国際社会がそういう方向へ向かったならば、後世からは画期的な議論として重視される文章になるでしょうね。

■田所 私は武田先生の論考「言と行、言と文」での「言語行為論」というのが、とても面白かったです。言葉は単に何かあるものを描写するだけではなくて、語ること自身が行為である、と。その中で現在、政治の言葉が軽くなっているということを語られていました。

最後に、次号95号は武田先生が責任編集者なので、その構想を簡単にお願いいたします。

■武田 まだ仮題ですが、特集テーマは「アカデミック・ジャーナリズム」です。ジャーナリズムとアカデミズムは水と油みたいに乖離しているところはあります。しかしジャーナリズムには速報や話題性を追うだけでなく、アカデミズム同様に歴史の審判に耐えるような仕事を理想としてほしいですし、専門性の象牙の塔に閉じこもりがちなアカデミズムには、ジャーナリズムを通じて成果を広く社会の中に開いてゆく姿勢が求められるでしょう。

そこで、アカデミズムとジャーナリズムの両方を橋渡しするような試みについて、あるいはそれを先駆けて実践している人たちにアカデミズムとジャーナリズムをどう考えているかといったことを書いて頂く特集になる予定です。

アステイオン94
 特集「再び『今、何が問題か』」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス

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田所昌幸
慶應義塾大学法学部教授、アステイオン編集委員会委員長。1956年生まれ。京都大学法学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス留学。京都大学大学院法学研究科博士課程中退。博士(法学)。専門は国際政治学。主な著書に『「アメリカ」を超えたドル』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『越境の政治学』(有斐閣)、『社会の中のコモンズ』(共著、白水社)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)など。

武田 徹
ジャーナリスト、専修大学文学部ジャーナリズム学科教授、アステイオン編集委員。1958年生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科修了。大学院在籍中より評論・書評など執筆活動を始める。東京大学先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大学人文学部教授を経て、現職。専門はメディア社会論。主な著書に『偽満州国論』『「隔離」という病い』(ともに中公文庫)、『流行人類学クロニクル』(日経BP、サントリー学芸賞)、『原発報道とメディア』(講談社現代新書)、『暴力的風景論』(新潮社)、『現代日本を読む─ノンフィクションの名作・問題作』(中公新書)など多数。

苅部 直
東京大学法学部教授、アステイオン前編集委員。1965年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。専門は日本政治思想史。著書に『光の領国 和辻哲郎』(岩波現代文庫)、『丸山眞男』(岩波新書、サントリー学芸賞)、『鏡のなかの薄明』(幻戯書房、毎日書評賞)、『「維新革命」への道』(新潮選書)、『基点としての戦後』(千倉書房)など。


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