最新記事

パンデミック

コロナ脱出『特別便』めぐり混乱 インドネシア在留邦人「私は乗れるか?」「料金は」

2021年7月15日(木)19時50分
大塚智彦

新たな特別便への期待高まる

この民間企業1社による"特別便"に搭乗することができなかった在留日本人がなお多くいるとみられることから、外務省や日本大使館は日系航空会社と「官民で連携」してさらなる特別便を飛ばして「できる限り多くの方々が速やかに帰国できるよう措置を講じていく」として希望する在留日本人に帰国への道を開こうとしている。

日本大使館から7月14日発出された在留日本人に対する連絡では「日系航空会社(日本航空、全日空)が通常の定期便とは別途、(ジャカルタの)スカルノ・ハッタ国際空港発、成田空港着の特別便を近日中に運航することを調整中である」として、搭乗希望者に対して「氏名、企業・団体名、搭乗希望人数、連絡先などを16日正午(現地時間)までに大使館に連絡するよう」求めている。

個人事業主、外資系勤務の日本人には壁も

これを読むと、帰国希望の在留日本人には「朗報」にみえる。しかし実態はというと大使館からの連絡の細部をよく読めば分かるが「特別便に搭乗を希望される方は入国後に必要な防疫措置」として出国72時間以内のPCR検査などと同時に「在本邦の受け入れ企業・団体が渡航者の本邦入国後14日間の防疫措置を確約する誓約書を外務省に提出すること」と明記されている。

どういうことかというと、帰国を希望する企業や団体からの上記の「誓約書」が必要不可欠となり、企業や団体に所属しない個人の帰国は「実質的に不可能」と読める。

これでは帰国を希望する個人企業やインドネシア企業に務める日本人は「対象外」となる可能性が高く、再び不満の声が高まるのは必至といえる。

日本大使館は懸命に可能な道探る

これに対し日本大使館は「個人で帰国を希望する方は個別に連絡をしてほしい」として可能な道を探る姿勢をみせている。

15日の時点でも近日中に飛ぶ予定の特別便に関して、出発スケジュールも料金も定かではなく、出発72時間前のPCR検査も「一体いつ受ければ間に合うのか」などの不安が広がっているという。

今回の措置は日本政府が設けている一日の入国者2000人の制限の枠外で、希望者の数に応じて搭乗便が手配されることになるという。

いずれにしろ清水建設のような一民間企業による"特別便"から「在本邦の企業や団体の所属する在留日本人を主対象とした特別便」へと拡大した措置が現在進んでいることになる。

そして近い将来に個人営業やインドネシアなど外資に務める在留日本人まで対象をさらに拡大して、希望する日本人すべて、さらに加えて日本国籍に基本的に限定されている現状から日本人の配偶者をもつインドネシア人やその子供などの希望も叶えられる広範囲、大規模な「希望する人全員の帰国」が実現することが早急に求められているといえる。

インドネシアは今、誰もがコロナによる死と隣り合わせという危機的状況に直面しているのだから。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米百貨店コールズ、通期利益見通し引き上げ 株価は一

ワールド

ウクライナ首席補佐官、リヤド訪問 和平道筋でサウジ

ワールド

トランプ政権、学生や報道関係者のビザ有効期間を厳格

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部に2支援拠点追加 制圧後の住
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中