最新記事

米ロ関係

サイバー攻撃は従来と別次元のリスクに...核戦争の引き金を引く可能性は十分ある

FROM CYBER TO REAL WAR

2021年7月16日(金)11時53分
トム・オコナー(本誌外交担当)、ナビード・ジャマリ(本誌記者)、フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

210720P44_SSN_02v2.jpg

コロニアル・パイプラインはランサムウエア攻撃で操業停止に追い込まれた(写真は同社の備蓄タンク) HUSSEIN WAAILEーREUTERS

アメリカの情報機関は、米政府機関などへのサイバー攻撃がプーチンの了承を得て行われていると考えているものの、ロシア政府と実行グループの間には一定の距離が置かれているとみている。ロシア政府が関与を否定しやすくするためだ。

ロシアと結び付きのあるハッカー集団は、これまでもアメリカの政府機関や企業にサイバー攻撃を行い、16年の米大統領選にも介入してきた。しかし最近は、攻撃が激しさを増しているようにみえる。食料、エネルギー、医療など、市民の生活に欠かせない物理的なインフラへの攻撃が増加しているのだ。

アメリカの安全保障専門家たちは、この傾向に神経をとがらせている。経済的実害が生じたり人命が失われたりするようになれば、これまでのサイバー攻撃とは全く別次元の問題になるからだ。ところが、ハッカー集団は危うい火遊びを続けている。

6月16日の米ロ首脳会談では、レッドラインも議題に上った。この席でバイデンはプーチンに、攻撃を絶対に許さない重要インフラのリストを提示した。それらの標的がサイバー攻撃を受けた場合は、戦争行為と見なして報復攻撃を行うと言い渡したのだ(ホワイトハウスは、そのリストを公開していない)。

レッドラインを超える攻撃は可能

ハッカー集団がレッドラインを踏み越えた攻撃を行うことはおそらく難しくない。サイバーセキュリティー専門家の間では、ロシアや中国に支援されたハッカー集団がアメリカの電力網のかなりの割合を停止させる能力を持っているという見方が一般的だ。大々的な停電が起きれば、大量の死者が出ても不思議でない。

要するに、次の大規模なサイバー攻撃が米ロ戦争の引き金を引く可能性がある。その戦争では、兵士や戦車やミサイルや空母、そしてもしかすると核兵器まで用いられるかもしれない。「敵国が米国内で物理的なインフラを破壊すれば、戦争行為と見なされる」と、国土安全保障省サイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁(CISA)の副長官(インフラセキュリティー担当)を務めたブライアン・ハレルは本誌に語っている。

現在のところレッドラインは踏み越えられていないが、ハッカーたちは毎日のように限界を試している。

2月には、フロリダ州オールドスマーの水道施設のシステムがハッキングを受けた。ハッカーは、水道水の水酸化ナトリウム濃度を通常の100倍以上という危険な水準まで増やした。幸い、スタッフが異常に気付いて対処したため、水道利用者の健康被害は避けられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、7月のドイツ販売が半減 BYDは5倍に

ワールド

プーチン氏、米国の停戦通告に応じる可能性低い 4州

ビジネス

米EU貿易合意は「良い保険」、 混乱続くと予想=E

ワールド

香港、最高レベルの豪雨警報を継続 病院・学校など閉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 5
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 6
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「原子力事…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 9
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 10
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 8
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 4
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中