最新記事

世界経済

今こそ賢人クーパーの教えに従うべき...コロナ後の経済回復に不可欠なもの

LISTEN TO COOPER’S ADVICE

2021年7月7日(水)22時49分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)
FRSのあるエクルズ・ビル

世界経済の大沈滞を救うには財政政策の国際協調が必要 SAMUEL CORUMーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<経済学者リチャード・クーパーは財政政策の国際協調がもたらす恩恵を解いたが、コロナ後の世界は彼の理論に学ぶべきだ>

昨年、私は恩師で友人、そして最も大切な研究仲間である優れた経済学者リチャード・クーパーを失った。私のエール大学での博士論文の指導教官の1人だ。

当時私はジェームズ・トービン、エドマンド・フェルプス、そしてクーパーという紛れもなく経済学者の「ドリームチーム」から教えを受け、誰もが私の学問を高めてくれた。クーパーは、私のアイデアを政策議論と結び付けてくれた。これら恩師への感謝を一生忘れることはない。

クーパーは政策事例を用いて私を指導した。彼は各国の経済政策の相互依存を検証し、財政政策が主要な政策ツールだとするケインズ理論の枠内で自説を構築していた。

単なる協力だけでなく綿密に計画された財政政策の国際協調によって、各国が恩恵を受けることを提示した。この考えはアメリカ、ドイツ、日本の3つの「機関車」が、世界経済という列車を「牽引」して1970年代の不景気を回復させる、というものだ。

クーパーに触発され、私はゲーム論を用いて似たアプローチを金融政策で提案した。中央銀行の政策をツールとしてインフレターゲットを目標に据える。国際金融システムが当時の固定相場制で密接に依存していた事実を考えると、各国間の政策協調は安定性維持のために不可欠だった。

リーマン当時に日本が犯した失敗

71年以降にブレトンウッズ体制が崩壊し、このアプローチは適切ではなくなった。変動相場制の世界では、「レッセフェール(自由放任)」が正しい金融政策だった。

それでも、マクロ経済政策は相互に依存していた。だが以前とは重大な違いがあった。固定相場制では、ある国のマクロ経済刺激策の拡大は、主要な貿易相手国の景気刺激策の縮小を必要とする。対照的に変動相場制では、ある国の金融緩和は他の国の金融緩和を伴わなければならない。

日本はこの常識に従わなかった。2008年のリーマン・ショックで世界が金融危機に陥ると、主要国はマネタリーベースを大規模に拡大させた。しかし当時の日本銀行は、同様にマネタリーベースを拡大しなかった。

結果として、日本円は大幅に値上がりし、日本の金融市場は比較的健全だったのに危機の震源地の国々よりも一層厳しい景気後退に苦しんだのである。

その後の13年、安倍晋三首相は、日銀の新総裁として黒田東彦を任命する。黒田は他の先進国の中央銀行と同様に積極的な量的緩和策を実行し、日本経済は回復を始めた。その成果は明白で、安倍内閣発足からコロナ禍が始まるまでの期間、日本では500万の新たな雇用が創出された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRBが金利据え置き

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き トランプ氏任命の

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中