最新記事

オーストラリア

オーストラリアでも自由がない中国人留学生、中国政府が家族を人質に監視、互いの密告も奨励

Chinese Police Threatened to Jail Student Over Pro-Democracy Tweets

2021年7月1日(木)16時17分
メアリー・エレン・カグナソラ

オーストラリアの各大学にとって、これは財政的にも外交的にも微妙な問題だ。オーストラリア政府は国内の大学に対して、中国と提携関係を築くよう促しており、各大学はそれによって巨額の利益を得てきた。

海外からの留学生受け入れはオーストラリアの一大産業で、2019年には同国経済に300億ドルの利益をもたらした。同国のシンクタンク「独立研究センター」の2019年版の報告書によれば、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が発生する前は、海外からオーストラリアに留学してくる学生の40%以上が中国人だった。

だがパンデミックの発生でオーストラリアは2020年3月に国境を閉鎖。オーストラリア大学協会によれば、2020年に大学の収入は140億ドル減少した。2021年には150億ドルの減収になる見通しだ。最近になって、2021年後半から一部の留学生の受け入れ再開を目指す試験プログラムが発表されている。

「大学側に報告を」と呼びかけ

留学生に対する干渉を指摘されたことは、中国政府にとってきわめて厄介だ。オーストラリアは2018年、外国の主体による内政干渉を阻止するための法律を成立させた。中国がオーストラリアの政治や大学などの各種機関に密かに干渉することを阻止することが、この法律の主な目的とみられており、中国は法律の成立に激怒。両国間の緊張は高まっていた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に答えた留学生の多くは、嫌がらせを受けたことを大学側に報告しなかった。大学は中国人留学生の権利よりも中国政府との関係維持を重視していると考えたからだという。

報告書を読んだオーストラリア大学協会の最高責任者、カトリオナ・ジャクソンは、中国人留学生や教員らに対して、いかなる嫌がらせも大学側に報告するよう促した。

ジャクソンは、各大学が中国の干渉を黙認しているということはないと否定。政府のタスクフォースと協力して問題の解決を目指していると主張する。「自由に議論し、知識を探究し、意見を戦わせることは、オーストラリアの大学が行う全ての活動の中核だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の

ビジネス

アマゾン、豪データセンターに5年間で130億ドル投

ワールド

イラン世界最大級ガス田で一部生産停止、イスラエル攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中