最新記事

イギリス

日英の貿易協定は布石、アジアにのめり込む英ジョンソン首相の計算

JOHNSON’S GLOBAL BRITAIN

2021年7月16日(金)17時17分
ウィリアム・アンダーヒル(在英ジャーナリスト)
英ボリス・ジョンソン首相(イラスト)

ILLUSTRATION BY KYOJI ISHIKAWA FOR NEWSWEEK JAPAN

<アジアに急接近して貿易協定の締結に励んでも、詰めの甘いジョンソン首相に難題の解決は本当に期待できるのか>

英首相のボリス・ジョンソンは威勢のいいスローガンがお好みのようだ。EU離脱派の旗頭だった5年前には「支配権を取り戻せ」、今は「グローバル・ブリテン(世界の中のイギリス)」を掲げ、バラ色の構想を売り込んでいる。

スローガンをぶち上げても中身については詰めが甘いジョンソンだが、基本的な考えは明らかだ。EUのくびきから解放されたイギリスは世界第6位の経済大国として堂々と独自外交を繰り広げ、民主主義と自由貿易の旗振り役を務めるというもの。特にジョンソンが目を付けるのはアジアの急成長市場だ。近頃では「インド太平洋への傾斜」が政権の合言葉になっている。

幸運にもジョンソンは今年、自身が描く新しいイギリス像を世界に示す絶好の機会に恵まれた。6月半ばには主要国の首脳たちを招いてG7を開催。気候変動対策を協議する国連会議COP26も11月にイギリスで開かれる予定だ。

EU域外の新たなパートナーとの関係づくりでは明るい兆しも見える。なかでも見逃せないのは日本と貿易協定を結んだこと。日本はアジア太平洋地域11カ国の貿易協定CPTPPへのイギリスの加盟も強力にプッシュしている。

首相の支持率が上昇した理由

インドとの貿易協定も重要課題だ。ジョンソンはEU離脱後初の外遊先にインドを選び、1月に訪問を予定していたが、新型コロナの感染拡大で延期。4月に再び計画したが、これも中止した。代わりにインドのナレンドラ・モディ首相をG7に招待。モディはオンラインで参加した。

国内では、ジョンソンは政策を実現しやすい立場にある。彼が率いる与党・保守党は2019年の総選挙で圧勝し安定議席を獲得した。しかもワクチン接種が迅速に進んだおかげで首相の支持率は上昇し、最大野党・労働党の支持基盤にまで食い込んだ。

なぜか。1つには「円滑な業務運営」を旨とする保守党の伝統を捨てた(ように見える)からだろう。ジョンソンは比較的貧しい地域に豊かさをもたらそうと、政策目標の「レベルアップ」を掲げ、公共交通の改善など幅広い施策に予算を投入している。

だが見通しはそう甘くない。自由貿易を拡大すれば国内産業は外国との競争にさらされる。最近まとまったオーストラリアとの貿易協定には、政権内でも懸念の声が聞かれる。農産物輸入の拡大で農家が苦境に追い込まれれば、重要な票田を失いかねないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港紙創業者に懲役20年、国安法裁判 国際社会は強

ビジネス

中国の証取、優良上場企業のリファイナンス支援 審査

ビジネス

欧州、ユーロの国際的役割拡大に備えを=オーストリア

ワールド

キューバの燃料事情は「危機的」とロシア、米の締め付
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 10
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中