最新記事

日本政治

政治家・菅義偉の「最大の強み」が今、五輪の強行と人心の離反を招く元凶に

An Exit Plan

2021年6月16日(水)19時24分
北島純(社会情報大学院大学特任教授)

210622P40_SGA_05.jpg

「令和おじさん」として有名に(2019年) FRANCK ROBICHON-POOL-REUTERS

私が見た菅氏の姿も同じ印象だった。例えばあるとき、選挙応援で地方に入った菅氏は、100人もの関係者一人一人とツーショット写真撮影をこなし、さらには急ぎの移動中の廊下でたまたま擦れ違った親子との記念撮影にも応じた。

いずれもマスコミの目を意識した行動ではない。他方で官僚に打って変わって厳しい態度を示すこともあるその姿は、同じ官房長官を務めたもう一人のボス平野博文氏と、かくもタイプが違うものかという感慨を私に与えた。

その菅氏の特徴として私が一番に想起するのは、独特の「俯瞰的視線」だ。人は他人をその視線で記憶するともいわれるが、菅氏独特の視線は容易には忘れ難い印象を残す。

菅氏は前述した98年の総裁選で、「無事の橋本、平時の羽田、乱世の小沢、大乱世の梶山」と称された旧陸軍航空士官学校上がりの梶山氏にほれ込み、ただの1回生議員でありながら派閥(小渕派、平成研)を離脱するという相当に思い切った行動を取った。その後宏池会に入会したが、自民党が野党に転落した09年に退会し、その後は一貫して無派閥の立場を貫いている。

「俯瞰的視点」と「時間軸の発想」

秋田というムラを飛び出し、自民党派閥というムラを飛び出した経験が、菅氏に日本政治の徒党性を相対化する独特の俯瞰的視点を与えたのかもしれない。

菅氏にはもう1つ「時間軸の発想」があるようにも思われる。たとえ短期的に支持率が落ちてもいずれ回復する、あるいは広く知られた不祥事であっても時間がたてば忘却される。一喜一憂しない独特の時間感覚があるとしたら、それもまたムラを相対化する経験に基づく「俯瞰的視座」がもたらしたものであろう。

その菅氏が再び思い切った行動を取ったのが12年の自民党総裁選だ。07年に病気退陣して意気消沈するとともに捲土重来を期していた安倍氏を担ぎ、多数派工作を成功させて第2次安倍政権樹立の立役者となった。

梶山氏にせよ安倍氏にせよ、自民党内の秩序が揺らぐ政局時に菅氏は「これはと見込んだ候補」を担ぎ上げ勝負に出ている。共通するのはムラ社会の掟にとらわれず、猪突猛進する姿勢だ。これだけを見ると、菅氏の本領が発揮されるのは、裏方として「神輿を担ぐ」ときであるようにも思える。自ら泥をかぶることをいとわない行動力もあり、参謀というより軍師、あるいは財閥を支える番頭的である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中