最新記事

安全保障

拡大する中国包囲網...英仏も「中国は対抗すべき存在」との認識に

HERE COMES THE UK

2021年5月26日(水)18時06分
マイケル・オースリン(スタンフォード大学フーバー研究所)
空母クイーン・エリザベスを視察した英ジョンソン首相

出航を控えた空母クイーン・エリザベスを視察した英ジョンソン首相 Leon Neal/Pool via REUTERS

<英海軍の最新鋭空母がインド太平洋へ。「米中対立」から「中国vs自由世界」という反中連合にシフトしつつある>

イングランドの軍港ポーツマス。過去800年余り、英海軍の艦船はこの港から世界の海を目指してきた。去る5月1日、この港から最新鋭の空母クイーン・エリザベスが打撃群の他の艦船を率いて出航した。新しい時代の幕開けを告げる船出だ。

7カ月をかけてインド太平洋地域を回る航海で、英海軍は航行の自由と開かれた海を守るため寄港先の国々の海軍と合同演習を行う。

その目的は?「われわれは中国を競争相手であり、対抗すべき存在とみている」。英海軍のトニー・ラダキン第1海軍卿はマイク・ギルデー米海軍作戦部長との米英海軍トップ会談で空母派遣の理由をそう語った。

それにしてもなぜ、はるか遠いアジアの係争水域に出向くのか。英政府はなぜここにきてアメリカのトランプ前政権が掲げ、バイデン政権が受け継いだスローガンに賛同し、「自由で開かれたインド太平洋」を守る任務に協力する気になったのか。

イギリスだけではない。他の多くの国々まで中国批判の大合唱に加わっている。一体どういうことなのか。

ついこの間まで、世界は米政府の対中強硬姿勢をハラハラしながら見守っていた。米中対立はエスカレートの一途をたどり、米中の緊張の高まりが世界の平和を揺るがす最大の脅威だ、とまで言われていた。

バイデン政権はトランプ路線を強化

この脅威をもたらした元凶として、名前が挙がっていたのはドナルド・トランプ前米大統領だ。米政府が過去40年間続けてきた、より協調的な対中外交をひっくり返し、強硬路線に舵を切った、というのである。

トランプは中国製品に制裁関税を課し、中国の情報通信技術を米市場から締め出し、南シナ海における「航行の自由」作戦を強化し、台湾に急接近した。こうしたトランプの姿勢を見て、米政府は中国を敵に仕立て、米中激突へと突き進んでいると警鐘を鳴らす向きもあった。

例えば100人超のアメリカの学者、元外交官、退役した軍の高官らがトランプに宛てた公開書簡。そこには「アメリカの多くの行動が米中関係の負のスパイラルを直接的に引き起こしている」と書かれていた。

バイデン政権がトランプ路線を軌道修正するどころか、人権問題などでさらに厳しい対中姿勢を取ったことから、こうした懸念はさらに高まった。アメリカは露骨に中国を敵視し始めたのではないか、というのだ。

米中の緊張の高まりがもっぱらアメリカの強硬姿勢のせいなら、他の国々はアメリカの「軽率な対中制裁」に距離を置いて模様眺めを決め込むか、アメリカに自制を求めるはずだ。しかし今、そうした動きは見当たらない。むしろ対中包囲網は拡大の一途をたどり、中国は自由主義陣営の多くの国々と対立している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中