最新記事

ワクチン忌避

「ワクチン怖い」インドの村で200人が脱走、川に飛び込む

Villagers in India Flee Homes, Jump Into River to Avoid COVID Vaccination

2021年5月26日(水)17時52分
ナタリー・コラロッシ
ベンガルールのワクチン接種会場

都市部ではワクチンの重要性も理解されているが(写真はベンガルール、インド国産ワクチン「コビシールド」の接種会場) Samuel Rajkumar- REUTERS

<新型コロナウイルスの危機が続くインドで新たな問題が。ワクチンを恐れる傾向が強い農村部に感染が急拡大しているのだ>

新型コロナウイルスの感染第2波が都市部から農村部に急拡大するインドで、「ワクチンは毒」と信じる多数の村人たちが、接種を逃れようと家から逃げ出す事件が起きた。

インド北部ウッタル・プラデーシュ州の農村地帯、バーラーバンキー県にあるシソーダ村で5月22日、医療チームがワクチンの集団接種のため村に到着すると、住民約200名が自宅から逃げ出した。

タイムズ・オブ・インディアによれば、副県政務官(SDM)を務めるラジブ・シュクラはこう証言する。「ワクチン接種のため医療チームと共に村に着くと、我々の姿を見た村人たちが一斉に走って逃げ出した。引き止めようとすると川に飛び込んだ。ワクチンの重要性を説明したが、信じてもらえなかった」

インディア・タイムズの報道によると、村では、ワクチンは有毒で、死んだり不能になったり、ウイルスに感染させられるという誤った情報が広まっていたという。

この村で農業を営むシシュパールという名の住民は、報道機関の取材に対し、ワクチンを接種された人たちが死んでいると聞いた、自分は政府を信用していないとインディア・タイムズに語っている。

「都市で働く友人たちから聞いた。地方政府の職員が私の問い合わせに答えなかったのも怪しい。デリーで働いていた叔父も、ワクチンを2回接種して1カ月後に死んだ」

「ワクチンを接種すれば感染しない保証もない。近隣の村ではいち早くワクチンを接種したが、その後に感染した人もたくさんいる」と、シシュパールは付け加えた。

感染は農村部に急拡大

人口約1500人のこの村で、22日にワクチン接種を受けることに同意したのはたった14人だった。

インドの農村ではこの数カ月、ワクチン忌避感情が広まって問題となっている。2020年12月に実施された全国調査では、農村部の住民のうち「接種を受けたい」と回答した人の割合は44%にとどまっていると、ナショナル・ジオグラフィックは伝えている。

ワクチンの安全性をめぐる噂や誤情報は、感染拡大第2波と戦うインドの保健当局にとって最大の障壁の1つになっている。

最近の調査報告書によると、インドの新規感染者数の48.5%は既に農村部が占めているという。インドの農村部には、伝統医学の治療者しかいない地域もある。ワクチンにまつわるフェイクニュースも浸透しやすい。

ナレンドラ・モディ首相も5月21日、農村部で急速に感染が拡大していると警告した。

保健省の発表によると、インドの感染者数は5月25日までの累計2694万8800人、死者数は30万7231人とされているが、実際には公式統計をはるかに上回るとみられている。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中