最新記事

日韓関係

慰安婦訴訟は却下...時間が解決しない日本と韓国の歴史問題にバイデンはどう出る?

The Legacy of Wartime Atrocities

2021年4月30日(金)11時57分
スルキ・リー、ソフィア・ジョーンズ、ロビー・グレーマー
慰安婦像の隣に座る李容洙(2019年2月)

慰安婦像の隣に座る李容洙(2019年2月) Kim Hong-Ji―REUTERS

<アジアの同盟国の間に横たわる埋まらない溝が、インド太平洋地域の地政学的戦略に波及する>

活動家に車椅子を押されてソウル中央地方裁判所から出てきた李容洙(イ・ヨンス)(92)は、悔しさで震えているように見えた。

4月21日、満員の法廷で予想外の判決が下された。2016年12月に李を含む元「従軍慰安婦」20人とその家族が日本政府に損害賠償を求めた民事訴訟で、原告の訴えが却下されたのだ。

判決は、国家は他国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則の例外を認めれば、「外交上の対立は避けられないだろう」と指摘した。これは日本政府が公の場で繰り返してきた主張でもあり、地域の安定のためにジョー・バイデン米大統領も賛同しているかもしれない。

今回の判決は、1月に同じソウル中央地裁が別の訴訟で、日本政府に対して元慰安婦12人に1人約1億ウォン(約970万円)の賠償金の支払いを命じた判決と矛盾する。1月の判決は日本政府に、韓国人元慰安婦に対する戦争犯罪の賠償と法的責任を初めて認める画期的なものだった。

元慰安婦や歴史家によると、日本軍は第2次大戦中に韓国を植民地支配していた間に、数十万人のアジア人女性と少女(その大部分は韓国人)を強姦し、奴隷にし、不妊手術をし、拷問して殺害した。76年後の現在、認定されている生存者は、当時10代だった李を含むわずか15人だ。

李は今後も正義を求めると語り、「国際司法裁判所に行く」と主張した。

今回の裁判は、病める日韓関係に改めて注目を集めるだけでなく、米政権の新たな外交戦略を複雑なものにした。バイデンは中国に対抗するとともに、外交政策の最重要課題に挙げている北朝鮮と核問題に向けて、アメリカの同盟国である日本と韓国の結束を図ろうとしている。

一方で、サラエボなど世界各地で戦争中の性暴力を訴える被害者が、彼らの主張する正義を求めようとして直面する政治的・外交的な障壁を浮き彫りにする判決でもあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の

ワールド

トランプ氏、国民向け演説で実績強調 支持率低迷の中

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中