最新記事

人権問題

ミャンマー国軍司令官も出席したASEAN臨時首脳会議 実質成果なく、今日も軍による暴力で死者

2021年4月25日(日)21時30分
大塚智彦

このためインドネシア政府、ASEAN事務局はNUGの参加を断念。ミン・アウン・フライン国軍司令官の参加を最優先させた経緯がある。

24日にジャカルタに到着したミン・アウン・フライン国軍司令官は軍服を背広に着替えて「ソフトムード」を演出する一方、ジャカルタ滞在時間を約6時間に設定。参加首脳・外相の中でも最短とすることで「余計な会談、接触」を入れる余地を最初から避けたという。

議長声明と5項目合意の背景

今回の会議の成果が共同声明としてではなく、議長声明になった背景にはミャンマー側が共同声明に難色を示したとされる。議長声明という形式にし、さらにその付属文書として「5項目の合意」という形で「成果」を強調するしかなかったというASEAN側の苦渋が表れているとの見方が有力だ。

この「合意」として発表されたのは、①暴力の即時停止、②全ての勢力による建設的対話の開始、③ASEAN特使による対話仲介、④ASEANによる人道支援の提供、⑤全ての勢力と対話促進のため特使のミャンマー訪問、という5項目である。

この「5項目合意」には前段の「議長声明」に盛り込まれた「外国人を含む全ての政治犯の釈放を求める声」に関しては触れられていない。

これは会議の席でミン・アウン・フライン国軍司令官が武力の即時停止と共に「明確な回答あるいは姿勢」を示さなかったことを反映した結果といわれている。

このように面談の会議に顔を出したミン・アウン・フライン国軍司令官にそれなりに気を使った結果の「成果」となったことから、今後果たしてミャンマーでの反軍政抗議活動を続ける市民への「虐殺にも匹敵する」とされる弾圧がどう変化するのかが最大の焦点となる。

今回の会議を主導したインドネシアとしてはASEAN特使の派遣や人道支援の提供で加盟国とミャンマーの理解が得られたとして成果を強調。今後さらに積極的な関与でミャンマー問題の平和的解決を目指す「第一歩」となったとしている。

しかし、会議が開催された24日にもミャンマー国内では軍による暴力で死者がでたとの情報も流れており、軍の強権的姿勢の変化は依然として見えてこないのが実情である。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英バークレイズ、25年は12%増益、業績目標引き上

ビジネス

アングル:高市トレード、個人も順張り 反転リスクに

ワールド

中国、国防産業監督機関の元幹部を汚職で起訴

ワールド

韓国企画財政相、米投資案件を事前審査へ 法案可決前
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中