最新記事

欧州

難民が受け入れ国の「市民」になるには何が必要か...戦禍を逃れた人々の切なる願い

REFUGEES NO LONGER

2021年4月22日(木)11時44分
アンチャル・ボーラ

活動家は政府が抜け道を見つけて難民を送り返すのではないかと危ぶみ、統合への次のステップとして市民権取得の推進を訴える。

難民が難民でなくなるのは受け入れ国の市民権を得たときだと言うのは、欧州難民協議会(ECRE)の上級コミュニケーションコーディネーター、ビラス・セーレ。欧州のほとんどの国では一定の条件付きで市民権取得への道が開かれているが、申請が簡単に通るとは限らない。

「市民権の取得は受け入れ国で完全な権利を手にする唯一の方法であり、難民を社会に溶け込ませるための重要なステップだ」と、セーレは言う。「(一時的な庇護で)統合は進まない。難民は市民として能動的に社会に関わることができず、宙ぶらりんな状態に留め置かれる」

ECREによれば19年にドイツは4000人近いシリア人に市民権を与えたが、その中に難民として入国した人は比較的少ない。

ドイツの難民支援団体プロ・アジールで法律顧問を務めるビープク・ユーディトは、今年から来年にかけてシリア難民の市民権申請が急増するとみている。ドイツに来た難民の大半が、申請条件である6〜8年の居住期間を間もなく終えるからだ。また彼らはドイツ語を習得し、法律にも詳しくなっている。

「難民」は法的意義を持つ言葉だが、時として排他的なニュアンスを帯びる。「人をいつまでも法的地位で定義すべきではない」と、ユーディトは言う。「長くその国に住み、社会の一員になっているならなおさらだ。バックグラウンドを理由に、ずっと特別視するのはおかしい」

世間の風向きも変わりつつあり、昨年10月の支持政党に関する調査では、有権者の反難民感情に付け込んで躍進した極右政党ドイツのための選択肢(AfD)が牙城の東部で1位から3位に転落した。3月に行われたオランダの下院選挙では中道右派の与党が第1党の座を維持し、極右の自由党は議席を減らした。

210427p48_SNM_05.jpg

シリアの首都ダマスカス郊外のヤルムーク難民キャンプ


選挙の立候補者に脅迫も

シリア難民危機を肥やしに台頭した極右政党だが、勢いを維持するのは難しそうだ。攻勢に転じたリベラル派はシリア難民の市民権申請や選挙への立候補を奨励し、各国で政治勢力になれるよう後押ししている。

市民権申請中のシリア難民タレク・アラオウスが9月のドイツ総選挙に緑の党から立候補すると聞き、前出のオマールは舞い上がった。

「アラオウスはドイツに住むシリア人の誇りだ」と、彼は言う。「シリアで彼のような候補が自由で公正な選挙に臨めるようになれば、それこそ夢のような話だ。しかし、シリアは民主主義国家ではない」

残念ながらアラオウスは人種差別的な嫌がらせや殺害予告に悩まされ、出馬を断念した。だがシリアで民主主義を求めた難民は、いまヨーロッパでその挑戦を続けている。

時間はかかる。それでも彼らは受け入れ国にしっかりと根を下ろし、完全な市民となるその日まで長い道を歩み続けるだろう。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米イールドカーブはスティープ化か、対FRB圧力で=

ワールド

PIMCO、住宅市場支援でFRBにMBS保有縮小の

ワールド

トランプ氏が英国到着、2度目の国賓訪問 経済協力深

ワールド

JERA、米シェールガス資産買収交渉中 17億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 4
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが.…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中