最新記事

米金融

米投資会社「アルケゴス」騒動は単発的な事故か、それとも危機の前触れか

2021年4月2日(金)22時41分
ジェンキンス沙智(在米ジャーナリスト)
アルケゴスのオフィスがあるとみられるニューヨークのビル

ヘッジファンド危機再び?(写真は、アルケゴスのオフィスがあるとみられるニューヨーク7番街888番地のビル) Carlo Allegri- REUTERS

<今週、野村HDや日本のメガバンクにも及んだ損失の連鎖の背景には、1998年のヘッジファンド危機の時と同じ過度のリスクテイクがあった>

米国株式市場はこの1週間、大きな揺れに見舞われている。発端は先週3月26日に米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントがデリバティブを利用してポジションを積み上げていたメディア大手バイアコムCBSやディスカバリーなどの株式が、年初来の大幅上昇による割高感や増資発表を嫌気した強い売り圧力にさらされたことだ。

アルケゴスは担保の追加請求(追い証)に応じられず、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどが同社の持ち分を強制的に清算するために前代未聞となる総額200億ドル(約2兆2000億円)以上のブロック取引を行った。アルケゴスはこのほか、中国検索大手の百度(バイドゥ)の米国預託証券(ADR)なども保有していた。

今週に入り、野村ホールディングスやクレディ・スイスをはじめとする世界の主要金融機関が相次いで同社との取引に関連して多額の損失を計上する可能性を明らかにしたことで、市場の揺れはさらに増幅した。国内では、三菱UFJ証券ホールディングスやみずほフィナンシャルグループも無傷ではいられない様相となっている。

市場では、今回の騒動を事故に例える向きがある。コロナ対策としての未曾有の経済対策や大量の資金供給を追い風に株高基調が続く中、市場参加者の警戒感が緩み、気が大きくなっていたところに起きた事故であるとの見方だ。

過度なレバレッジと不透明な取引実態

一体何が問題だったのか。

まずアルケゴスが「トータル・リターン・スワップ」というリスクの高いデリバティブ(金融派生商品)を多用していたことが挙げられる。報道によれば、同社は複数の金融機関を通し、約100億ドルの運用資産にレバレッジを効かせて500億ドル前後ものポジションを保有していた。トータル・リターン・スワップなどデリバティブのポジションは開示義務がないうえ、同社は個人資産の運用を目的に設立される「ファミリーオフィス」の形態を取っているため、規制の監視をほとんど受けていなかった。

それゆえ取引実態が不透明だっただけでなく、金融機関が互いにアルケゴス関連のエクスポージャーを正確に把握できていなかった可能性が指摘されている。

米著名投資家のウォーレン・バフェット氏は20年近く前からすでにトータル・リターン・スワップの危険性について警鐘を鳴らしていた。2002年の株主への手紙では、1998年に巨額の損失を被り、米連邦準備理事会(FRB)が異例の救済劇を繰り広げたヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)がトータル・リターン・スワップを用いていたとして、これを含むデリバティブ商品は「今はまだ息を潜めているものの、(市場に)致命的な損害を与える危険をはらんでいる金融の大量破壊兵器だ」と危機感をあらわにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米IT大手、巨額の社債発行相次ぐ AI資金調達で債

ワールド

トランプ政権、25年に連邦職員31.7万人削減 従

ワールド

米、EUにデジタル規制見直し要求 鉄鋼関税引き下げ

ビジネス

情報BOX:大手銀、米12月利下げ巡り見解分かれる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中