最新記事

インタビュー

話題作『ノマドランド』の原作者が見た「痛々しいほどの孤独」

2021年3月27日(土)15時20分
大橋 希(本誌記者)
アメリカのノマド生活者の実態を描く『ノマドランド』

フランシス・マクドーマンド扮するファーンは夫も家もなくし、車上生活を始める  (C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

<パンデミックによって車上生活などを送るノマド生活者の数は増えている>

さまざまな理由で住む家を失い、バンなどで車上生活を送るアメリカの「ノマド(遊牧民)」たち。キャンプ場やアマゾンの配送センターなどで季節労働者として仕事をしながら、各地を転々とする彼らの多くは高齢者で、2008年のリーマンショック後に増えたという。

そんなノマドをフランシス・マクドーマンドが演じた話題作『ノマドランド』が日本公開中だ。映画は放浪生活の厳しさとともに、同じ境遇にある人々のコミュニティーの温かさも映し出す。登場人物のほとんどが本物のノマドであり、まるでドキュメンタリー映画を見ているような気持ちにもさせられる。

クロエ・ジャオ監督にとっては3作目の長編で、2月末のゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞と監督賞を受賞。アカデミー賞でも作品賞、監督賞、主演女優賞など6部門でノミネートされている(授賞式は4月25日)。

原作となったのは、ルポルタージュ『ノマド――漂流する高齢労働者たち』(邦訳・春秋社)。著者であるジャーナリストのジェシカ・ブルーダーに、本誌・大橋希が話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――ノマドについて、取材の前後で見方が変わったところはあるか。

取材に取り掛かったころは、キャンピングカーで生活しながら国中を旅する彼ら高齢者は、大自然の中で休暇を楽しむように定年後の生活を楽しんでいる人たちだと思っていた。しかし実際に話を聞いてみると、かなり状況が違うことが分かった。

路上を旅する中でいろいろなコミュニティーを作っていることや、彼らの多くがとてもクリエイティブでねばり強くチャレンジをする人々であることを知った。ただし、ノマドが雇われる仕事はとてもハードで、例えばキャンプ場の案内係をしていてあばら骨を折った人がいる。そんな大変な目にあっているということも分かった。

――ノマドたちがアマゾンの配送センターで働く姿を見て、彼らは搾取されていると感じた。だから、アマゾンが撮影に協力的だったことに少し驚いた。

裏でどういう交渉があったかは分からないが、非常に協力的だった。内部で撮影ができたことには私も驚いた。

nomadland02.jpg

「パンデミックの影響でノマドは増えるのではないか」とジェシカ・ブルーダーは話す (C)Todd Gray

――もしあなたが家賃を払えないような生活になったとき、ノマドの生活を選ぶ可能性は?

どういう選択肢があるかにもよるが、たぶん検討すると思う。もしかすると姉妹の家で一緒に生活するかもしれないが、追い出されるかもしれないし。どの企業も、車上生活をしているノマドのような人々を雇いたがる。仕事があるというのは、ノマド生活の魅力の1つ。私はまだ彼らのような年齢にはなっていないが、高齢者にとっては仕事ができることは喜びだと思う。

――リーマンショックはノマドが増えた1つの理由だ。現在の新型コロナウイルスの影響で、ノマドが増えている可能性もある?

多くなっているという話は聞く。実際、私の友人の1人が仕事を解雇され、家賃が払えなくなって車上生活を始めた。

今は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)のために、家賃を滞納しても家主から立ち退きを求められない「モラトリアム」の法律がある。ただし3月末までの措置なので、そこを過ぎると多くの人が家を追い出される状況になる。車上生活に入る人は増えるのではないか。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中