最新記事

中国

習近平の「鄧小平への復讐」――禁断の華国鋒主席生誕百年記念行事挙行

2021年3月16日(火)11時17分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

文革は毛沢東が起こしたものだから、それに終止符を打つために毛沢東夫人の江青ら4人組を逮捕したのだから、これ以上の功績はない。しかし文革が10年間も続いて、当時はまだ毛主席万歳を叫ぶ人民が数多くいたので、一定程度の毛沢東に対する敬意を払わないと、こういった類の人民が黙らない。人心を落ち着かせて統治するためには最低限必要な毛沢東に対する敬意だっただろう。

しかし自分がトップに立ちたい鄧小平は強引な手法と論理で華国鋒から全ての職位を剥奪し、自分自身が中央軍事委員会主席の座に就いて、今後二度と華国鋒の名前をどこかに掲載してもならないし礼賛してもならないと指示を出すのだ。

華国鋒など存在しなかったものとして歴史から消し去った。

軍を握った鄧小平は、天安門事件など、やりたい放題の暴政を繰り広げていく。

自分の傀儡として国家のトップに据えた胡耀邦や趙紫陽なども、「気に入らない」という理由だけで失脚させていった。

2008年8月の華国鋒逝去が契機

しかし2008年8月20日に華国鋒が逝去すると、時の胡錦涛政権の中共中央政治局常務委員は全員が揃って葬儀に参列し、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」も華国鋒を礼賛する弔辞を載せた。

それを待っていたかのように中国共産党党史研究室にいた韓鋼(かんこう)が『還原華国鋒(華国鋒の真相を掘り起こせ)』という論文を雑誌『往事』で発表した。

それでもなお、鄧小平を否定することに微妙な躊躇が見られた。

習近平の父・習仲勲を失脚させた犯人は鄧小平

なぜなら、1962年に小説『劉志丹』を口実に、習近平の父・習仲勲を失脚させた犯人が鄧小平だからだ。

一般的には(と言うよりも、鄧小平の捏造により)、習仲勲が失脚したのは、当時雲南省の書記をしていた閻紅彦(えん・こうげん)が康生に「この小説は反党小説だ」と訴えて、習仲勲は失脚したことになっている。康生は「中国のベリヤ(旧ソ連のスターリン時代における死刑執行人)」と呼ばれる人物で、延安時代に毛沢東に江青を紹介したことによって毛沢東の覚えめでたくなり重宝がられた。

しかし実際は水面下で動いていたのは鄧小平で、閻紅彦は1940年代における解放戦争(国共内戦)時代の鄧小平の直接の部下だった。閻紅彦は鄧小平の言うことなら何でも従った。

また鄧小平と康生は非常に仲が良かったと、のちに康生の秘書が語っており、このとき鄧小平の方が康生よりも職位がずっと上だったので、康生は鄧小平の言うことなら何でも聞いた。

事実、当時、国務院副総理だった習仲勲から全ての職位を剥奪することが決議された会議の夜、閻紅彦は鄧小平の家に行って祝杯を挙げている。だから犯人が鄧小平であったことはまちがいない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中