最新記事

中韓関係

韓国が怒る中国の「文化窃盗」、その3つの要因

CHINA “STEALS” KOREAN POET

2021年3月11日(木)20時45分
チェ・ソンヒョン

コロナ禍を受けて中国人の入国禁止を訴える韓国の人々(2020年1月、ソウル) AP/AFLO

<国民的詩人の国籍からキムチの出自まで、韓国文化が中国の「文化帝国主義」のターゲットになっている>

中国最大の検索エンジンである百度(バイドゥ)が、韓国で論議を呼んでいる。日本の植民地支配下にあった朝鮮の詩人で独立運動家でもあった尹東柱(ユン・ドンジュ)を、「中国人」としたためだ。

誠信女子大学(ソウル)の徐坰徳(ソ・ギョンドク)教授によると、百度のオンライン事典「百度百科」は修正の依頼を何度も受けているのに、今も尹を中国籍の朝鮮族(中国国内の朝鮮系少数民族)として紹介。「誤りだと指摘し、修正させなくてはならない」と、徐はフェイスブックで主張した。

論争の一因は、「朝鮮族」という言葉の解釈が中韓の間で違うことにある。韓国でいう「朝鮮族」は中国の朝鮮系少数民族を指し、朝鮮半島の朝鮮人と区別するために使われる。一方で中国では、民族としての朝鮮人を意味する。

尹が生まれ育った満州は当時、日本の植民地支配下にあった。彼の母語は朝鮮語で、詩も全て朝鮮語で書いた。そのため多くの韓国人は、百度百科の記述を「文化的窃盗」と見なした。

尹は1917年、現在は中国吉林省龍井市の一部である明東村で生まれた。京都の同志社大学で文学を学んだが、朝鮮民族主義の学生団体を組織したとして43年に投獄され、2年後に薬物を注射された後に獄死した。これは生物学的な実験の一環だったともみられている。

死後の48年に詩集『空と風と星と詩』(邦訳・岩波文庫ほか)が出版され、やがて尹は韓国で最も人気のある詩人となった。尹の作品の中心テーマは、日本の支配下で朝鮮人として生きることへの内省だった。名前を日本名に変える5日前には、自身の悔悟をつづった作品「告白」を書いた。

文化を盗みたい3つの理由

韓国で愛国的詩人として尊敬されている尹を中国人とした百度の記述が、論議の的になるのは驚くことではない。韓国国内にはこの件について、政府が中国に対してもっと強気に出るべきだという批判もある。

こうした非難は、中国の文化圏内に韓国を統合しようとする「文化帝国主義」への警戒感と絡み合っている。批判の声は韓服やキムチをめぐる問題で、さらに拡大した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中