最新記事

感染症対策

インド、世界最大のコロナワクチン接種作戦 デマやゲリラの懸念も

2021年2月1日(月)12時45分

リーナ・ジャニさん(中央)は、マザルパット地域医療センターで働く100人の医療従事者の一員として、今月初め、インド国内でも真っ先に新型コロナウイルスのワクチンの接種を受ける1人となった。写真はコラプットで16日撮影(2021年 ロイター/Danish Siddiqui)

リーナ・ジャニさんは早起きだ。1月の冷たい空気のなかで家事を終えると、彼女の部族が暮らすインド東部の寒村ペンダジャンを巡る道路を徒歩で登っていく。

隣人のバイクに拾ってもらい、後部シートで40分。ところどころに水田が散在する丘陵地帯を抜け、34才の医療従事者であるジャニさんが向かったのは、マザルパット地域医療センターだ。

このセンターで働く100人の医療従事者の一員として、ジャニさんは今月初め、インド国内でも真っ先に新型コロナウイルスのワクチンの接種を受ける1人となった。インドは、政府が「世界最大規模」と豪語するワクチン接種計画を展開している。

もっとも、ジャニさんの耳には深刻な副反応の噂も届いており、体調が悪化したらどうなってしまうのかと懸念していた。

「息子と娘たちがいるので、怖かった。私の身に何かあったら、子どもたちはどうなるのだろう」とジャニさんはロイターに語った。今のところワクチン接種による副反応は出ておらず、安堵の表情を見せる。

難題の村落地域、反体制派の動きも

ジャニさんが接種を受けたワクチンは、はるか遠くから運ばれてきた。工場からジャニさんが待つ診療所まで、飛行機、トラック、バンで約1700キロの道のりだ。しかもその間ずっと低温を維持しなければならなかった。

起伏のある丘陵と深い森林で、大規模でないとしても左派ゲリラによる反体制活動が続いている。そんなコラプット地域にワクチンが無事に届いたことは、オリッサ州当局による周到な計画と準備の賜物である。

だが当局者は、これがはじめの一歩にすぎないことを認めている。

これまでに接種を終えたのは、主としてジャニさんのような医療従事者など150万人。最終的に14億人の国民を新型コロナウイルスから守ろうとしているインドのワクチン接種計画においては、きわめて小規模な第1フェーズである。

新型コロナに対して脆弱であると見られる2億7000万人を対象にする、はるかに規模の大きい第3フェーズが始まるまでは、時として反体制色の強い地域や暑熱の環境でもワクチン接種を広めていくという計画の成否は政府にとっても定かではない。

コラプット地区の責任者であるマデュスダン・ミシュラ氏は、「問題が起きてくるのは、一般市民が接種を受けにやってくる第3フェーズだ」と語る。「本当に大変なのは、そこからだ」

ワクチンは無事に供給できるとしても、接種を受けるよう人々を説得するのが、また難題である。

特に村落地域ではワクチンの安全性・有効性に対する懐疑的な見方が強いと当局者は語る。ソーシャルメディアサイトや口コミによる誤った情報が、ワクチン普及の足を引っ張る可能性もある。

徹夜で配送、武装警官が護衛

ジャニさんが接種を受けたワクチンはアストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発したものだ。インドでは、バーラト・バイオテックが開発したワクチンも使用している。

接種が始まる一方で、インドにおける新型コロナウイルス感染者数は1100万人に近づき、死者は15万人を超えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中