最新記事
フォーラム

繰り返される衰退論、「アメリカの世紀」はこれからも続くのか

2021年1月20日(水)13時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

(左から)田所昌幸・慶應義塾大学教授、小濵祥子・北海道大学准教授、待鳥聡史・京都大学教授 写真:サントリー文化財団

<トランプからバイデンへと代わるが、今後のアメリカはどうなるか。今回の「アメリカ衰退論」はこれまでと違うのか、アメリカ・ファーストとは何だったのか......。フォーラム『新しい「アメリカの世紀」?』より(前編)>

2021年1月20日、バイデン政権へと交代する。「アメリカの終焉」「超大国アメリカの没落」など、「アメリカの世紀の終わり」はしばしば議論されてきた。それでもアメリカの動向に世界がいまだに注目し続けていること自体は、現在も「アメリカの世紀」が続いていることを示唆している。

しかし、今後のアメリカはどうか? 論壇誌「アステイオン」編集委員長の田所昌幸・慶應義塾大学教授と、同編集委員で特集責任者の待鳥聡史・京都大学教授が、小濵祥子・北海道大学准教授をゲストに迎え議論した。2020年12月に行われたオンラインフォーラム『新しい「アメリカの世紀」?』(主催:サントリー文化財団)を再構成し、掲載する(前編)。

◇ ◇ ◇

asteion20210119forum-kohama.jpg

小濵祥子/北海道大学大学院公共政策学連携研究部准教授。1983年生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程を経て、ヴァージニア大学政治学部博士課程修了。博士(国際関係)。専門はアメリカ外交、国際紛争。著書に『ポスト・オバマのアメリカ』(共著、大学教育出版)など。

差異を普遍化しようとするアメリカ

■小濵: 1941年、アメリカ人ジャーナリストのヘンリー・ルースは20世紀を「アメリカの世紀」だと喝破しました。アメリカが物質的に圧倒的なパワーを持ち、その価値観が世界中を魅了している中で、世界における指導力を今こそ発揮し自由と民主主義を守るための戦い(第二次世界大戦)に本格参戦すべきだとアメリカ国民へ呼びかけたわけです。

しかし、物質的なパワーという意味では現在のアメリカは相対的に低下しつつあり、またアメリカの価値観の魅力という点でも揺らいでいます。今回の「アステイオン」(93号)の特集「新しい『アメリカの世紀』?」は、その揺らぎがアメリカ国内、アメリカ人自身にも起きているということを示唆する論考が多く、アメリカ社会の抱える問題の深刻さを感じさせました。特に自分らしく生きるという個人のアイデンティティと、アメリカ国民や市民といった共同体意識をつなぐものが弱体化しているという問題が大きいと思います。

例えば、ジャーナリストの金成隆一氏は「真ん中が抜け落ちた国で」において教会や労働組合、メディアといったかつては「真ん中」で個人と社会をつないでいたものが失われている現状を指摘していました。また、政治学者のマーク・リラ氏は「液状化社会」で、個人と社会の関係が「液状化」し不安定になっている現状に既存政党が充分に対応できていないと論じています。

(参考記事:労組に入らず、教会に通わない──真ん中が抜け落ちたアメリカ/金成隆一 ※アステイオン93より転載)

asteion20210119forum-tadokoro.jpg

田所昌幸/慶應義塾大学法学部教授。1956年生まれ。京都大学法学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス留学。京都大学大学院法学研究科博士課程中退。博士(法学)。専門は国際政治学。主な著書に『「アメリカ」を超えたドル』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『越境の政治学』(有斐閣)など多数。論壇誌『アステイオン』編集委員長も務める。

■田所: そもそもアメリカは多様な人たちが集まってできた国で、どういう原理で一緒になっているのかという前提は重要ですよね。おそらくその原理が今までは民主主義や自由だったのだと思いますが、かつてほどに自信を持てず、多くの人が不安に思っているようにも見えます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中