最新記事

新型コロナワクチン

イギリスでアストラゼネカ製ワクチンの接種が始まったのに、アメリカが遅れている理由

UK Distributes First AstraZeneca Vaccines: When Will The US Follow Suit?

2021年1月5日(火)16時35分
ダン・グレーバー

アストラゼネカとオックスフォード大学共同開発のワクチン接種を受けた高齢者(1月4日、英オックスフォード) Steve Parsons/REUTERS

<温度管理も容易で価格も安く、ワクチン普及の期待がかかるアストラゼネカ製ワクチンにアメリカが抱く疑問とは>

イングランド全土で3度目のロックダウンが宣言されたのと同じ1月4日、イギリスでは英製薬大手アストラゼネカがオックスフォード大学と共同開発した新型コロナウイルスワクチンの接種が始まった。イギリス政府はこれを、パンデミックとの戦いにおける「重要な転換点」になると大きな期待を寄せている。だがアメリカでこのワクチンが使えるようになるのは、4月になるかもしれないという。なぜこんなに差が出るのか。

アメリカは早くて4月?

イギリスの国民保健サービス(NHS)は、アストラゼネカ製ワクチンを一般向けに供給する世界初の保健機関だ。82歳の透析患者ブライアン・ピンカーが、アストラゼネカ製ワクチンの接種を受ける最初の人物となった。「これは、この恐るべきウイルスとの戦いにおける重要な転換点だ」と、イギリスのマット・ハンコック保健相は述べた。「すべての人々に対して、パンデミックの終わりという新たな希望を与えられることを期待している」

イギリス政府はこのアストラゼネカ製ワクチンについて、1億回分以上の接種が可能な契約を結んだと発表している。イギリスでは昨年12月、既に米ファイザー製ワクチンの摂取を開始しているが、マイナス70度以下の特別な温度管理が必要なファイザー製と違い、アストラゼネカ製は冷蔵庫でも保管できて価格も安いため、普及への期待がかかっている。

だが、アメリカ国民がこのワクチンの接種を受けられるまでには、まだ時間がかかりそうだ。新型ウイルスワクチン開発・供給の加速を目的としたアメリカ政府の「ワープ・スピード作戦」を率いるモンセフ・スラウイ主席顧問は12月30日、アストラゼネカ製ワクチンの認可は少なくとも4月まで先送りする見込みだと発言した。このワクチンの効き目に対して懸念が残っているのが理由だという。

「率直に言って、最大の疑問は高齢者への有効性だ」と、スラウイは政治誌ザ・ヒルに語った。「この点はさらなる裏付けが必要だ。臨床試験では十分な数の(高齢の)被験者が採用されていなかったからだ」

アストラゼネカ製ワクチンは、すでにアメリカで供給が始まっているファイザーやモデルナ社製のワクチンは、RNAを使って免疫反応を引き起こすタンパク質を作るよう体に促すのに対し、アストラゼネカ製ワクチンは、弱毒化あるいは不活性化されたウイルス株を用いて、体の防御機能を起動させる仕組みだ。アストラゼネカ製ワクチンはデータ上、ファイザーやモデルナのワクチンと比べて有効性が低いのも確かだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中