最新記事

黒人差別

警官の暴力は許せないが、警官の顔撮影は禁止するというマクロンの二枚舌

Clip of French Police Beating Black Man Watched 14M Times

2020年12月1日(火)18時30分
レベッカ・スピアコール

暴行の一部始終が監視カメラに捉えられていた FRANCE 24 English/YOUTUBE

<警官による黒人暴行の動画の視聴回数は1400万回を越えたが>

フランスで、複数の警察官が黒人男性に暴力を振るう動画がネット上で拡散し、これまでに1400万回視聴されている。エマニュエル・マクロン率いる政府は、警察官の撮影を禁じる法案の成立を目指しているが、動画の拡散が法案の審議にも影響を及ぼすことになりそうだ。

オンラインニュースサイトの「ループサイダー」は11月26日、監視カメラの映像を公開。同21日に撮影された映像には、音楽プロデューサーのミシェル・ゼクレアがパリにあるスタジオで、数分間にわたって3人の警察官に殴る蹴るの暴行を受け、さらにもう1人の警察官がスタジオ内に催涙弾を投げ込む様子が映っていた。発端は、ゼクレアがマスクを着用しているか否かをめぐる口論だったと報じられている。

この動画が拡散したことで、フランスでは警察官による人種差別の問題が改めて注目されている。またフランス政府が、市民が(警察の暴力行為を抑止・記録するために)携帯電話で警察官を撮影することを禁じる法案を提出したことで、特に移民が多く暮らす地域では不安の声が高まっている。

現在、議会で審議が続けられている問題の法案は、市民が悪意を持って警察官の(顔が認識できる)画像や動画を公開することを禁じる内容だ。11月28日にはフランス各地で法案に抗議するデモが展開され、パリでも大勢の人がデモ行進を行った。

動画は「身を守るもの」か「攻撃材料」か

反対派は、新たな法案は報道の自由を脅かし、市民が警察の暴力を通報しにくくするものだと主張している。ゼクレアもAP通信に対して、「動画のお陰で自分の身を守ることができて幸運だった」と語っている。ゼクレアに暴力を振るった警察官たち(監視カメラに気づいていなかったと報じられている)は、映像が公開された後に停職処分となった。また検察当局は11月29日、4人の警察官に対する本格捜査を請求し、裁判所は4人のうち3人を引き続き勾留することを認めたという。

フランス24によれば、パリのレミ・ハイツ検事総長は問題の警察官らについて、武器を用いた意図的な暴行や人種差別的な発言、虚偽公文書の作成などの容疑で捜査を行うと述べた。問題の警察官らは、警察の記録文書に「ゼクレアが攻撃してきて1人の警察官の銃を奪おうとした」と記述しているが、監視カメラ映像はそれが嘘であることを示している。

ゼクレアは報道陣に対して、次のように語った。「警察官は私を守ってくれるはずの人々だ。私は暴行を受けるようなことは何もしていない。彼らを法律で処罰して欲しい。(暴行を受けて)もちろん怖かった。自分の身を守ってくれる動画があって幸運だった。こんなことがあってはならない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、9月米利下げ観測強まる

ビジネス

米GDP、第2四半期改定値3.3%増に上方修正 個

ワールド

EU、米工業製品への関税撤廃を提案 自動車関税引き

ワールド

トランプ氏「不満」、ロ軍によるキーウ攻撃=報道官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ」とは何か? 対策のカギは「航空機のトイレ」に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    米ロ首脳会談の後、プーチンが「尻尾を振る相手」...…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「風力発電」能力が高い国はどこ…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 10
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中