最新記事

感染症対策

トランプ政権が確保した人工呼吸器14万台 約半数はコロナ重篤患者救えず

2020年12月7日(月)13時21分

厚生省当局者を含む呼吸器疾患の専門家はこの10年、議会公聴会や研究発表で、インフルエンザ大流行などを想定した国家備蓄の必要を訴えていた。

新型コロナ患者は人工呼吸器に数週間つながれることがあり得るが、簡易型の呼吸器は通常は数時間程度、重篤な状態になった患者をICUに運び込む際などに使うことが想定されている。

長期間の使用に向く肺の保護機能などを備えていないことが多く、専門家によると極めて重症な新型コロナ患者を救える可能性が低くなる。

理想的でなくとも

新型コロナ感染が中国や欧州で拡大した今年初め、世界各国の政府は人工呼吸器の確保に奔走した。アザ-厚生長官は2月、米国の人工呼吸器の備蓄は、新型コロナ流行と闘うには不十分だろうと表明。当時の備蓄は大半が重篤な呼吸器疾患に対処可能なタイプだったが、台数は約1万4000台だった。

トランプ大統領は3月下旬に米国は10万台を追加で生産するか調達すると約束し、数週間後に厚生省は大量発注を発表した。

厚生省報道官によると、当時はICU用だけでなく、患者搬送中や野営病院での臨時使用も想定して、調達する呼吸器の種類を多様化することが意図された。たとえ機器が理想的なものでなくても医療機関のニーズを満たすため、可能な限り多くの呼吸器を調達することが必要と判断し、そう推奨していたという。

国家備蓄は10月までに14万台が加わった。このうちICU用が1万5000台だった。厚生省の契約通知によると、このタイプの機器の価格は1台当たり約2万1600ドル。

このほか、重症患者のICU搬送時の使用を想定するが、圧力のコントロールや酸素レベル調節などの高機能も備えた、回復までの数週間に使用できるタイプを約5万8000台調達した。この平均価格は約1万6800ドル。

重篤な患者の短時間の移送や、それほど急性でない患者向けには4種類を計約6万6000台、総額約4億5000万ドルで調達した。平均価格は約7900ドル。ただ、このタイプでは重篤なコロナ患者の救命は難しい。

ロイターの分析によると、4タイプはWHOが3月に指針を公表した重症新型コロナ患者治療の最低基準を満たしていない。4タイプのメーカーのうち、コンバット・メディカルは、それほど急性でないコロナ患者を助けることができる機器だと述べた。ヒル・ロム・ホールディングスとレスメドは、WHOの基準を満たしている機器ではないとした上で、やはり急性ではない患者の治療に役立つとした。

患者のリスク

4つ目のタイプを共同で製造したのは、米フォード・モーターと米ゼネラル・エレクトリック(GE)。仕様書や専門家によると、気管挿管をしている急性症状のコロナ患者に長期間使うのには適していない。

カリフォルニア州が7月に国家備蓄から人工呼吸器500台の供給を要望したところ、受け取ったのはフォード/GEの製品だった。同州の公衆衛生当局者によると、必要だったのはより高機能な機器だったため、返却を要望。その後、厚生省はICU用の500台を送ってきた。同州に対し、フォード/GE製もそのまま保有できるようにした。

フォードは、製品の性能への質問についてはGEにするよう取材に返答した。GEはコメントを拒んだ。仕様書には「搬送中の患者支援や、重篤でない治療での使用のために特に設計された」と明記されていた。

国家調達を監督する当局者に助言するシンシナティ大学のリチャード・ブランソン教授は、気管挿管をしているコロナ患者向けの人工呼吸器を病院が必要としている時に、フォード/GEの製品を送るのは問題かもしれないと指摘。「期待していたのと違う機器を受け取り、それが患者の必要に合わない場合、患者が危険にさらされるため、リスクが高い」と指摘した。適切な時に適切な機器がなければ「患者は生き延びられない」とも述べた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
・巨大クルーズ船の密室で横行する性暴力



ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗幣インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、CIAにベネズエラ秘密作戦承認 マドゥ

ワールド

中国、仏と高官レベルの戦略的協議強化の意向表明

ワールド

IMF専務理事がウクライナ再訪問計画、時期は未定=

ワールド

豪失業率、9月は4.5%で4年ぶり高水準 利下げ観
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中