最新記事

米中関係

高度成長期の日本と同様に教育水準が急上昇する中国──その封じ込めを米次期政権は諦めよ

THE US MUST ACCEPT CHINA’S RISE

2020年11月12日(木)18時20分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)

中国の台頭を前にあがけばアメリカは多くを失う THOMAS PETER-POOL/GETTY IMAGES

<中等教育で欧米に追い付き、高等教育の水準も過去20年間で大幅に向上した中国。アメリカは中国の急成長阻止はもちろん、遅らせることもできない>

言うまでもないが、選挙は各陣営の意見の相違を明確にする。今回の米大統領選もそうだ。アメリカ史に残る大接戦となったこの選挙の結果は、アメリカの政策のさまざまな側面に大きな影響をもたらす。

だが共和党と民主党の間で1つだけ、意見が一致している点があるようにみえる。「中国封じ込め」の必要性だ。

米政府は、中国が政府の介入を受けて、経済・技術面で不当な形で発展していると見なすようになってきた。しかし、これは誤解でしかない。最も「成功する」経済開発計画は大抵の場合、どう転んでも達成できる目標に焦点を当てている。それを政府による介入のおかげと見なすのは、お門違いというものだ。

この点については、日本の例がいい教訓になる。1970年代から80年代の日本経済の急成長は、各種資源を戦略部門に優先的に振り分けた通商産業省(現・経済産業省)の手腕のたまものだとして、世界的に高く評価された。しかし本当に成長を後押ししていたのは通産省ではなく、国民の高い貯蓄率と、規律の高い労働者の教育水準が急速に向上したことだった。

今の中国の成長を支えているのも、ほぼ同じ要素だ。中国の貯蓄率はGDPの40%以上あり、欧米諸国の2倍以上の水準に達している。これが各部門への投資の大きな財源になっている。

中国は教育にも多大な投資を行ってきた。中等教育では既に欧米に完全に追い付いている。OECD(経済協力開発機構)の国際学習到達度調査によれば、中国の中学生は欧米に比べてはるかに学力が高い。

技術面の主導的な地位を確立する上で極めて重要な高等教育も、過去20年間で大幅に水準が向上した。全米科学財団によれば、いま中国が輩出している技術者の数はアメリカの2倍を超えている。科学技術の専門家による査読付き出版物の数でも、中国はアメリカをしのいでいる。

アメリカは中国が技術面で世界を制覇するというシナリオに怯え、それが現実になるのを是が非でも阻止しようとしている。それでも中国の持つ基礎的条件を考えれば、アメリカには中国の急成長を阻止することはもちろん、遅らせることもほとんどできない。華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)一社をつぶしたところで、この国の抱える才能が新たなITの巨大企業を生み出すことはほぼ間違いない。

中国は経済成長に伴っておのずと輸出依存度を減らし、その一方で新たに育った技術者が各種のテクノロジーを極めていく。すなわち中国政府が次期5カ年計画で掲げているテクノロジー自立計画は、国家が介入しなくても実現の可能性が高いということになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中