最新記事

宇宙

土星の衛星「タイタン」で、太陽系の大気で確認されたことのない「シクロプロペニリデン」が検出

2020年11月4日(水)18時34分
松岡由希子

メタンを主成分とする深さ100メートル超の湖も発見されているタイタン NASA/JPL-Caltech/University of Arizona/University of Idaho

<NASAは、南米チリ・アタカマ高地のアルマ望遠鏡(ALMA)で観測したデータを分析し、「タイタンの大気中でシクロプロペニリデンを初めて検出した」との研究論文を発表した......>

土星の最大の衛星「タイタン」は、太陽系の衛星で唯一、地球の大気密度の4倍に相当する豊富な大気を持ち、地球以外で唯一、地表に液体が安定的に存在する奇妙でユニークな天体だ。そしてこのほど、この天体を覆う大気中で、地球上では実験室でしか存在しえない「シクロプロペニリデン(C3H2)」が初めて見つかった。

これまで太陽系の大気中では確認されていなかった

アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターの研究チームは、南米チリ・アタカマ高地のアルマ望遠鏡(ALMA)で2016年と2017年に観測したデータを分析し、2020年10月15日、学術雑誌「アストロノミカルジャーナル」において「タイタンの大気中でシクロプロペニリデンを初めて検出した」との研究論文を発表した。

シクロプロペニリデンは、他の分子に反応して、別の物質を形成しやすい。そのため、低温で拡散しやすく、化学反応が促されづらい星間空間では見られるものの、これまで太陽系の大気中では確認されていなかった。

シクロプロペニリデンがタイタンの大気中のみで見られる原因については明らかになっていないが、今回は、シクロプロペニリデンが反応する他の気体が少ない大気の上層部を観測したため、シクロプロペニリデンが検出できたのではないかと考えられている。

タイタンの大気は窒素がその多くを占め、地表には炭化水素の雲や雨、川、湖がある。タイタンの環境は、地球の大気が酸素の代わりにメタンで占められていた25〜38億年前の地球とよく似ているとみられており、タイタンの地表には、地球での生命の誕生に関与した分子が存在する可能性があると考えられてきた。

869_PIA07232_(1).jpg

カッシーニに搭載され、タイタンに投下されたホイヘンス・プローブから送られた映像 NASA/JPL/ESA/University of Arizona

NASAでは、2027年にタイタン探査用回転翼機を打ち上げる

シクロプロペニリデンは、3つの炭素原子が環状に結合した環式化合物の一種だ。DNAやRNAの核酸塩基は、このような環状構造をベースとしていることから、シクロプロペニリデンは、タイタンで生命を形成させうる、より複雑な化合物が生成される前の段階、前駆体としても、注目されている。

NASAでは、2027年にタイタン探査用回転翼機「ドラゴンフライ」を打ち上げ、タイタンの居住可能性や前生物化学の進化などを詳しく調査する計画だ。


The Science of Dragonfly


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中