最新記事

東南アジア

民主化求めるデモ隊に守勢のタイ王制支持派 「国王の意思」力に反転攻勢を狙う

2020年10月28日(水)15時30分

抗議デモに包囲された首相府は、ワチラロンコン国王が散策する写真をツイッターに投稿した。写真はバンコクで22日、国王の写真を掲げる王制支持派(2020年 ロイター/Chalinee Thirasupa)

抗議デモに包囲された首相府は、ワチラロンコン国王が散策する写真をツイッターに投稿した。付されていたハッシュタグは、「#KingKeepFighting(王は戦い続ける)」である。

抗議デモによるプラユット・チャンオチャ首相への退陣要求、そしてタイ王制にとって数十年来で最大の試練に直面して、王制支持のエスタブリッシュメント(支配層)は、反撃に向けた勢力結集を図ろうとする素振りを見せつつある。


抗議デモがますます王制批判の色を強める中で、王宮は数カ月にわたり沈黙を保ってきた。だが、2014年に権力を掌握した軍事政権のトップだったプラユット首相に対し、国王は22日に支持する素振りを示し、24日には反政府デモ参加者に対抗した王制支持派デモ参加者を称賛した。

王制支持派はこれに勇気を得た。

強硬な王制支持派の自警団組織を率いるリャントン・ナンナ氏はこの週末、フェイスブックへの投稿で「国王に敵対する政治家、リーダーたちは、タイ王国から逃亡する準備はできているか。お前たちの命運はほぼ尽きた」と恫喝した。

抗議参加者たちは当初プラユット首相を標的にしていたが、その後、王室の権力制限も求めるようになった。抗議デモの収拾に向けて厳しい緊急措置が実施されてから1週間、デモの規模は拡大するばかりだ。

抗議参加者の主たるターゲットは、依然としてプラユット首相である。だが、9カ月前に亡くなった同首相の父親の葬儀が22日に行われたとき、国王もこれに参列した。

そして24日、広範囲に報道されるタイミングで、国王は抗議デモ参加者に対抗した男性について「とても勇敢で素晴らしい。感謝している」と述べて激励した。

タイ国民は、これが何を示唆するか読み取っている。

バンコクのマヒドル大学インターナショナルカレッジのジェームス・ブキャナン講師は「国王は態度を明示した。彼はこの戦いに参加しており、民主主義を求める若者の運動に抵抗する王制支持者・ナショナリストを支持する側にいる」と語った。

政府業務コンサルタント企業、アジア・グループ・アドバイザーズのパートナーであるナッタボーン・ジャングサンガンシット氏は「(国王の)動きは、支配層が結束を強め、態勢を整えていることを示唆している」と話す。

「緊張が高まり、衝突のリスクが増している。状況が悪化すれば、政府はさらに強硬な手段を用いる口実にする可能性がある」と同氏は言う。

政府は抗議デモ参加者との対話を模索していると述べているが、最も著名なデモ指導者の一部は拘束されている。

アヌチャ・ブラパチャイスリ政府報道官は「今は団結して、いかにして前に進んでいくかを考えるべきだ」と述べている。

抗議活動はこれまでのところ、概ね平和的に行われている。これまでに警察が放水を行った例では、怒りをさらにかき立てるだけに終わった。

大学構内での衝突

だが、先週は危険な兆候も見られた。黄色のシャツを着た数十人の王制支持者が、ラムカムヘン大学で学生たちと小競り合いになり、学生らが負傷者1人を抱えて後退したため、勝利を宣言したのである。

タイ国民は、黄シャツと赤シャツ、つまり王制支持者とポピュリスト指導者、タクシン・チナワット氏の支持者が市街地で衝突を繰り返した10年間を忘れていない。そして、そうした混乱を口実として利用し、2014年に権力を握ったのがプラユット氏なのだ。

ナレスアン大学のポール・チェンバース氏は「暴力的で強硬な王制支持派のデモが平和的・進歩的な抗議デモと衝突すれば、王室に支持された軍事クーデタが起きかねない」と語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当

ビジネス

ドイツ住宅建設業者、半数が受注不足 値下げの動きも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 7

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中