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北朝鮮

見つかれば射殺......コロナ禍を生き抜く北朝鮮のコチェビ(孤児)たち

2020年10月20日(火)14時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮のチェコビ(デイリーNK提供)

<深刻な経済的苦境に陥っている北朝鮮では、最近になってコチェビの増加が伝えられている>

今年4月に行われた韓国国会議員選挙に、保守系野党の自由韓国党(現国民の力)の比例候補として立候補し当選した池成浩(チ・ソンホ)氏。1982年に北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)で生まれた彼は、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のころに、ストリート・チルドレンともホームレスとも訳される「コチェビ」となった。

生き抜くため、走る貨物列車から石炭を盗んでいたときに事故で左腕と左足を失った。2006年に母と妹の後を追って弟とともに脱北、東南アジアを経て韓国にたどり着いた。北朝鮮で社会的身分が低いとされる障害者でもありコチェビでもあった彼が、韓国で国会議員にまで登りつめたことに、北朝鮮では驚きの声が上がった。

新型コロナウイルス対策の余波で深刻な経済的苦境に陥っている北朝鮮では、最近になってコチェビの増加が伝えられている。その中には国境を超える者もいる。

中国のデイリーNK情報筋によると、鴨緑江を挟んで北朝鮮の新義州(シニジュ)と向かい合う中国遼寧省の丹東で、今年4月ごろからコチェビの姿を見かけるようになった。

彼らは、摘発を恐れて人気の少ない農村に忍び込み、農作業を手伝って食糧を得ているとのことだ。中国の農民は、北朝鮮の兵士や盗賊を見つければ公安に通報するが、コチェビを見つけても不憫に思い通報しないという。コチェビが中国まで進出することは、今までは見られなかったことだという。

参考記事:【スクープ撮】人質を盾に抵抗する脱北兵士、逮捕の瞬間!

近年、国境警備が強化されているが、今年に入ってからはさらに厳しくなり、川を渡って脱北する行為は非常に難しくなっている。中国との合意に基づき多少は緩和されたが、北朝鮮は、国境に近づく者を無条件で射殺するとの方針を示していた。

そんな状況で、コチェビがどうやって川を渡ったのか不思議に思った中国の農民が直接尋ねてみたところ、「新義州の東隣にある義州(ウィジュ)から鴨緑江を渡ってやって来た」「昨年から何度もやっている」と答えたという。

鴨緑江の川幅はかなりのものだ。丹東と新義州を結ぶ鴨緑江大橋は全長946.2メートル、さらに下流で建設中の新鴨緑江大橋は3026メートルに達する。ところが、丹東市内から上流に数キロ遡ると、川筋は複数に分かれ、川幅は100メートルほどになる。中には数メートルしかないところもある。

かつて、脱北して中国に忍び込んだ朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士が、川沿いの食堂や商店で物乞いをしていたのもこの地域だ。

鴨緑江をさらに遡った地域でも、コチェビの姿が目撃されている。

中国の別の情報筋によると、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)では最近コチェビが増加、7人1組で行動している。彼らは昼間、河原でくず鉄やペットボトルを拾い、夜になると川を渡って中国の吉林省長白朝鮮族自治県の農村に忍び込み、農作物を盗んで、生活している。

ただし、不法越境者に対しては射殺命令が下されているだけあって、さほど頻繁に川を渡っているわけではなく、長白でコチェビを見かけることは、丹東に比べれば少ないようだ。

コチェビの脱北増加について別の北朝鮮内部情報筋は、かつては政府がコチェビを積極的に収容して数が減っていたが、新型コロナウイルスの煽りを受けて経済が悪化したことで、その数が急増したとして、彼らの脱北の目的はあくまでも一時的な食べ物の確保だと説明した。中国で長くとどまって働いたり、韓国やその他の国を目指したりしているわけではないようだ。

金正恩党委員長は、中等学院と呼ばれる施設を新設、拡充し、コチェビを収容する政策を行っているが、待遇が極めて悪いこともあり、一度収容してもすぐに逃げ出してしまう。また、苦しい中で費用負担を強いられた地域住民からは不満の声が上がっている。

参考記事:「物乞いを収容せよ」金正恩命令に国民から疑問の声

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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