最新記事

日本社会

ネット炎上の参戦者、実はヒマでも貧困でもない「高年収の役職者」という意外な実像

2020年10月16日(金)18時40分
山口 真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授) *東洋経済オンラインからの転載

しかも、この正義感から裁く快楽は、ネットは現実社会よりも強いものとなる。なぜならば、ネットには自分と同じようにその人・企業を「許せない」と思い、同じように正義感から攻撃を仕掛けている人が少なからず存在するためだ。仲間と共に悪に対して正義の裁きを下している図式になるわけである。

思い思いの正義感から寄ってたかってバッシングを加える――。これは私刑(リンチ)と変わらない。

満たされていない「極端な人」たち

先述の調査結果で判明した属性を聞くと、なぜそのような人が「極端な人」になるのか、と疑問に思う人もいるかもしれない。

しかし、そのような属性と、その人が満たされているかは実はそれほど関係がない。家庭内で不和を抱えているかもしれない。若いときは目標をもっていろいろ取り組んでいたが、今はただ日々の降ってくる業務に追われているだけかもしれない。

実は、近年の研究では、年収や健康といった環境が幸福感に与える影響は限定的であることがわかっている。より重要なのは、自分で何かをなそうとするなどの自分を主体とした変化や、人間関係のようだ。特に重要なのは家族など親密な人たちとの関係であり、端的にいえば幸福には愛が必要なのである。

つまり、人間関係がうまくいっていなかったり、能動的に物事に取り組んでいなかったりする人は、たとえ外面上は人からうらやましがられるような立場でも、内面では満たされているとは言いがたい状態なのだ。

常磐道あおり運転事件で逮捕された容疑者からも、そのような傾向が見られる。当該事件の容疑者は会社経営者であり、親族が所有するマンションを受け継いで不動産の管理や賃貸業をしていた。さらに、高級外国車を乗り回し、インスタグラムには高級な飲食店の写真を載せ、ぜいたくな暮らしをしていたらしい。

その人が、あおり運転をした揚げ句、被害者男性に対して数発殴打を繰り返すような「極端な人」だったのである。

reuters_20201016161556.jpg以前、私が企業のエグゼクティブ向けに講演をしたときに、その聴衆の1人から興味深い話を聞くことがあった。曰く、その人の知り合いの他社のエグゼクティブが、まさにネット炎上に積極的に参加しており、かつ、それを自慢げに「正してやった」と言ってくるらしい。

その理由についてその方は、「ある程度成功を収める一方で、定年も見えてくるなか、自分の限界が見えてきて不満を感じているのではないか」と考察していた。「極端な人」とは、一見すると幸せそうに見えても、実はまったく満たされていない人たちなのである。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg




今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中