最新記事

BOOKS

「食事は食パンとキムチと水だけ」バイトにもありつけない韓国の若者たち

2020年10月2日(金)16時55分
印南敦史(作家、書評家)

日本の労働市場は人手不足に悩まされているが、韓国で問題になっているのは若者の高い失業率。特に1997年のアジア通貨危機以降は失業率が上昇基調にあり、2000年からはほぼ最悪に近い状態で停滞しているという。

つまり、そんな状態が20年も続いている韓国は、まさに「大卒貧困者の割合が世界トップレベル」という状況に置かれているわけだ。

文政権の最低賃金引上げでアルバイトの競争が激化した

しかも地方在住の若者の場合は、標準的な就職活動のレールに乗ることすら困難だという。就職できたとしても、キャリアアップは至難の技。ソウルの上位大学出身者が地方の職までを奪ってしまうからである。

さらに2017年の文在寅政権の発足以後は、アルバイトすらも激しい競争に晒されている。その原因として指摘されているのは、最低賃金の上昇だ。

文在寅政権は18年に7530ウォンだった最低賃金を、19年には8350ウォンまで大幅に上げた。その結果、競争が激化してアルバイトにさえありつけない若者が増えたというわけだ。

上記のミン・チュナさんも、単発バイトを知人に紹介してもらっていたものの、19年末からはほとんど収入のない状態が続いているという。


「実家からたまに仕送りをもらっていますが、今月はもう家賃が払えない。花屋さんのバイトに何とか受かりましたが、それも週1日だけ。洋服は組み合わせを変えて着まわし、食事はシリアルとヨーグルトを買って毎日少しずつ食べ、それでしのいでいます」
 極貧生活を抜け出すため、今は日本で働くことを希望している。
「10月から日本にワーキングホリデーを使って行く予定ですが、日本のバイトの給料は韓国よりはるかに高いと聞いています。韓国に未練はありません」(32〜33ページより)

内陸にある忠清道からソウルの大学に進学するために上京したという27歳の女性も、大学でTOEIC800点を獲得し、難易度の高いIT系の資格を複数取得したにもかかわらず、就活が円滑に進むことはなかった。


「エントリーシートはもう400枚書きました。それに、たとえば国内業務しかないリフォーム会社でもTOEICの点数が高くないと早い段階で落とされる。ただただ疲弊する毎日です」
 就職活動と単発のアルバイトを掛け持ちし、週4回働いて月に80万ウォン。
「食事はもう何か月も、食パンとキムチと水だけ。もしこの先就職できなかったら、と思うとゾッとしますね」と話す。(33ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中